本棟の二階は、何か信じられないくらいに、重い空気だった。
「切れたよ。ねえ、景音くん、どうする?」
「そりゃ技術室まで行って道具を借りるか、もしくは、FBIを呼ぶか。しかし、呼んだところでって感じだよ。ほとんどの捜査官は今いないだろうし」
景音は冷静に技術室の方を見て言った。
「爆弾を解除しなくちゃいけないんだろうけどさ、さっきの雪ちゃんの電話の方が気になるよ。ねえ。雪ちゃんのとこ行こう」
「それはやめといたほうが良さそうだ。この爆弾、時計も無いし、遠隔式なのかも、時限式なのかも不明なのに、離れれば、犠牲者が多くなる」
景音の頬に一筋の汗が伝っていた。
「まあ、あいつが死ぬなんてヘマしないしな」
景音は壁にもたれかかった。そしてゆっくりしゃがみこんだ。
「どうしたの?」
「ごめん、貧血、みたいだ……」
景音の顔がだんだん青くなっていく。
「ま、まずい……私一人で爆弾解除なんて……」
歩美が目を瞑った時、随分昔の事を思い出した。
緑色の草原が広がっている庭に、兄妹がそこに居た。
「ねえ、お兄ちゃん。いい加減教えてよ~」
「何を?」
「これの直し方。間違えて、変なコードと繋げちゃったんだもん」
歩美は不服そうな顔を兄に見せた。
「えー、もうしょうがないな」
在人は歩美の持っていた目覚まし時計を取ると、家の中に戻って行った。
そのまま庭の中に向かうと、2階にある自分の部屋に向かって行った。
クローゼットを開けると、その中からドライバーを取り出した。
「うーん……まあ、開けてみればわかるよな」
在人はどらーバーの先をねじに当てると、左向きに力強く回した。
中を開けてみると、配線がぐちゃぐちゃになっていた。
「……なんでこんなことになってんだ?」
彼は眉を顰め、微妙な笑みを見せた。
彼はそのまま、下に降りて何かを取りに向かった。
しばらくして戻ってきたのだが、彼の手にははさみがあった。
「それで、コード切るの?切って大丈夫なの?」
「こんな繋げ方したら切る以外ないだろ」
赤いコードを引っ張り出すとそれをはさみで切った。
すると、甲高い昔の黒電話のような音が鳴り響いた。
「びっくりした」
「直ったよ」
在人は後ろのスイッチを切ると歩美に渡した。
「解除成功、みたいだな」
「爆弾みたい」
2人は部屋の中で笑っていた。
歩美は唐突にそれを思い出した。
歩美は支えていた景音を床に寝ころばせると、すぐに立ち上がり、ペンチを取りに技術室に入って行った。
「爆弾を早く解除して雪ちゃんのところに行かないと!」
黒板の前にあった大きな机の引き出しを開けると、中に大量のペンチとドライバーがあり、それぞれ2つずつ取り出すと爆弾の場所へ戻って行った。
「点火装置に直接つながっているのは、この白いコードで、黒いコードは、此処に直接つながっているから切れなくて、黄色いコードは、黒いコードの隣だから危険……じゃあ、切るのはこの白いコードで良いんだよね?」
歩美は、ペンチの刃を白いコードに引っ掛けた。
彼女は目を瞑ると、勢いよくペンチを握った。
カチッ。
コードの切れる音がする。
「何も起こらない……良かったあ解除できた~」
歩美はほっとしたように床に腰をつく。
しかし、爆弾はまだ止まっていないと気が付いた。
「さっきまでこんなの無かったのに。タイマーが表示されてる!あと30秒しかない。なんで?」
歩美は両手で爆弾を持ち上げると、それを良く観察した。しかし、手掛かりは得られなかった。
「どうしよどうしよ。こんなところで……」
爆弾の下をよく見てみると、赤いコードがあった。
「……もう、一か八かだ!」
ペンチの刃を赤いコードに引っ掛けると、さっきと同じようにペンチを握りしめた。
「……ふう。焦ったー。爆発しなくて良かった……」
歩美がそう呟いた途端、一階から爆発音が聞こえてきた。
「一階って……まさか……」
電話が鳴っていることに気が付いたのか、スマホを手に取ると、すぐに電話に出た。
「もしもし?二人とも大丈夫?」
「まあ、大丈夫よ、危なかった……ほんとに。さっきまで一階を探してたから、死ぬとこだった」
「良かった……こっちはもう爆弾解除したよ」
「もう見つけたの?早いね」
「まあね。最後に探したところに見つけたから、終わったら、そっち行くよ」
歩美は、スマホを耳から話すと、通話終了ボタンを押した。
「でも気になるのは雪ちゃんのところ。確率的には雪ちゃんの探してる場所が一番高いんだよね」
雪が担当している場所は、FBIの本部がある、旧校舎。旧校舎には人はめったに入らないため、本部はここに置かれている。
「一人で行くにしては、確率の高い場所だし……何より気になるのは雪ちゃんの携帯を奪ったのが誰かってこと……」
歩美には一人で行くというのが気になって仕方なかった。
一分間硬直したまま考えていると、雪はハッと気が付いた。
「もしかして、雪ちゃん。一人で行って死のうとしてるんじゃ……誰かと行けば、止められると思って……」
歩美の顔がどんどん青ざめていった。