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──夜になり、貴仁さんから電話が掛かってきた。
「……君か。今日は、驚かせたな」
「いえ、あんなサプライズをしてもらって、うれしくて本当に……」
「そう言ってくれると、私もよかったなと思う……」
あんな出来事のあった後で、なんだか互いの会話がぎこちなくなる。
「……。……指輪を贈った時から、ずっと思っていたんだ。どうやって正式に、その……プロポーズをしようかと」
「はい……」とだけ頷く。彼が思いのほか考えていてくれたのだろうことは、火を見るよりも明らかなように思えた。
「……あの時、番組で君の話になったら、ずっと抱え込んでいた想いを吐き出さずにはいられなくてな。こういう場で告げるのはどうなんだろうかと思いつつも、一度喉まで出かかった気持ちをどうにも引くことができなかった……」
「はい……」とまた頷く。彼のひたむきで真摯な思いを目のあたりにすると感極まって、そう答えるのが精一杯だった。
「あの告白に、嘘はない。私の思いに、応じてくれるか?」
不意に問いかけられ、胸の鼓動がにわかに早まる。
とっさには答えられず、電話に沈黙が生じ微かなノイズが耳に響いて、よけいに返事を焦るあまり声も出せないでいると、
「……彩花、私と結婚をしてくれないか」
放映時と同じ言葉が、今度は耳元に直接に告げられた──。
体温がぶわっと一気に上がり、彼の思いにしっかり答えなくちゃと気負うけれど、ようやく口から出たのは、やっぱり「……は、はい」という、たったの一言のみだった。
「……ありがとう」
彼の低く柔らかな声音が、胸に深く沁み入るように伝わると、こんな素敵な人と結婚できる喜びにしみじみと包まれるようだった……。