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「及川くん、休憩入っていいよ」
文化祭2日目。今日も僕はメイド服を着、接客をしていた。
休憩。今日はこれから自由に回る事ができる。
「ありがと」
僕はそう言って伸びをした。皆は相変わらず忙しそうだ。その中に京介の姿を見つけたが、僕はすぐに視線をずらした。
「あ、あとその格好で行ってね。宣伝も兼ねて」
「…分かった」
着替えようと思っていたが、僕は仕方なくそのまま教室を出た。
今日は誰とも予定は入れていない。誘われはしたが、時間が合わず無しになった。問題はこれからどうするかだ。1人で回るのもいいが、それはなんだか気が引ける。
考え、僕は5組の教室へ向かった。
案の定、探していた人物はつまらなそうに突っ立っていた。
「佐藤!」
僕が声をかけると、佐藤は露骨に顔をしかめた。
「…なに」
「一緒に回ろ」
僕は佐藤を誘った。
「嫌だ」
即答だ。
「いいじゃん」
「僕は暇じゃないんだ。それに」
「佐藤、俺が代わるよ」
佐藤の言葉が遮られた。たぶん佐藤と同じクラスの人だ。
「いや、いい」
と佐藤は言っていたが、その生徒は笑いながら佐藤を押した。目が合うと、親指をたてて僕にサインを送ってきた。何か勘違いされているような気がしたが、僕はその生徒に感謝しつつ、
「行くよ」
佐藤を引っぱった。
2人で並んで歩く。佐藤は大人しく僕の隣を歩いていた。
「嫌に視線を感じるな」
佐藤はそう言ってため息をついた。
「あはは…」
たぶん僕のせいだろう。
バサッ、
「ん?」
佐藤が突然ジャージを僕に被せた。
「これでも着ろ」
「えぇ、でも」
少しはマシになるだろうが、寒くはない。
「いいから着ろ」
「分かった」
僕は仕方なく佐藤のジャージを来た。少しぶかぶかだ。
「佐藤のにおいがする」
洗剤って感じのにおいだ。
「嗅ぐな…。で、どこに行くんだ?」
めんどくさそうに佐藤はそう言った。
「んー、まずは……」
「もうこれで十分だろ…」
佐藤はうんざりとした顔でそう言った。
「いや、あとあっちも行きたい」
「だから、」
「行くよ」
僕は嫌がる佐藤を連れ、店を回りまくっていた。先程はお化け屋敷に行った。佐藤は怖くないと言っていたが、多分怖いものは苦手なんだろう。反応が面白かった。
「はぁ…」
「楽しかった」
人気のないベンチに僕と佐藤は腰を下ろした。
「…疲れた。嫌がる奴を無理やり連れて行って何が楽しいんだ…」
佐藤は疲れきったようにそう言った。そんな様子に僕は笑ってしまった。佐藤は僕を睨みつけたあと、遠くの方へ視線を向けた。
佐藤の横顔。目にかかる程の前髪に、メガネ。…僕は佐藤のメガネを取ってみたい衝動にかれた。
「なんだよ…」
メガネを取った事がない訳ではない。佐藤はめちゃくちゃ目が悪いのだ。メガネがないと何も見えないレベルで。
僕は佐藤のメガネを取った。
「おい!」
佐藤が声をあげる。僕は佐藤からメガネを遠ざけた。
「いい加減にしろよ、」
「はは、どうし……」
思ったよりも佐藤の顔が近くにあり、僕は驚いてしまった。
はっとし、さっと後ろに逃れ、メガネを返す。心臓はバクバクと鳴っていた。
「何がしたかったんだ…」
怒ったのか、佐藤はそう言い、そっぽを向いた。
…佐藤の顔をちゃんと見たのは初めてかもしれない。僕は顔を覆った。
「……」
「…」
「この前話した事、覚えているか?」
佐藤が沈黙を破った。
この前。そういえば佐藤は僕の病気を当てるとか言っていたっけ。
「まあ、」
佐藤の双眸が僕を捉えた。
「僕はあれから色々考えていたんだ。君は……か?」
僕は佐藤の言葉に両目を見開いた。…知られた?
「…」
「いや、違うか。忘れてくれ」
佐藤はかぶりをふり、下を向いた。
「…」
「……」
僕は頭が真っ白になった。
「…どうした?」
「…」
「まさか、いや、。あれは冗談だったと言うか…」
らしくなく、佐藤は口数が多くなっている。
「違う、よな?…何か言ってくれよ」
違う。そう言えばいいだけだ。なのに、言葉が出てこなかった。
「有り得ない。だって、だったとしたら、君は…」
佐藤の声は震えていた。
「…死んでしまうじゃないか」