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#なんでもあり
あ
16
13
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翠「…、ん。」
小鳥の囀り。
いつも通り、朝がやってきた。
この「いつも通り」が嘘だったらいいのに。
寝起きで重い体を動かし、リビングへ向かう。
翠「おはよう。いるまちゃん。」
写真の君に挨拶。
君がいなくなってから、早2年。
写真の君に挨拶する朝が習慣となりつつある現実に嫌気がさした。
ーーなんで、死んじゃったの。ーー
毎日そう思う。
あの時、喧嘩しなければ。
あの時、俺が謝っていれば。
そんな後悔が後をたたない。
翠「俺の馬鹿…、っ」
時間が心を癒してくれる。
そんなものは夢物語だった。
いつまで経っても、俺の心は後悔でいっぱいだった。
“あの夜”が俺の頭を離れてくれない。
それは一つの君からの罰だった。
俺が悪いことを忘れられないように。
君からおくられた、呪いなのかもしれない。
ーーーーーーーーーー
ーー3年前。
翠「ただいま。」
ドアを開けると、美味しそうな匂いが充満していた。
茈「おかえり。今日も遅かったね。」
君は眠そうに立ち上がって、俺を出迎えてくれた。
翠「仕事長引いちゃった。ご飯いらない。」
俺は仕事がうまく行っていないストレスで、君に八つ当たりした。
茈「…、そっか。」
茈「お風呂入ってるよ。ゆっくり休んでね。」
なのに、君は何も言わずに受け止めてくれた。
本当に、優しい人だった。
俺が風呂から上がると、君は俺のために作ったご飯を捨てているところだった。
少し心が痛んだけど、俺はそのままベットに向かった。
そんな生活が1ヶ月…
ううん。
もっとだよね。
たくさん続いた。
たくさん耐えてくれてたんだよね。
なのに俺は気づけなかった。
本当に自分勝手だったと思う。
ある日、君に限界が来たんだ。
いつものように帰宅したら、
翠「ただいまー。」
茈「……。おかえり」(にこっ
茈「ご飯できてるよ。」
少し、いつもと雰囲気が違った。
それに俺は気がつけなかった。
翠「ご飯いらない。お風呂行ってくる。」
茈「ッ…、」(ぽろっ
茈「ねぇ…!」
久しぶりに会話が続いた。
翠「なに?俺疲れてるんだけど…。」
茈「毎日ご飯作る人の気持ちにもなってよ…っ、!」
茈ちゃんも我慢の限界だったんだよね。
当たり前だ。
毎日毎日、食べてもらえないご飯を作ってくれていたんだから。
茈「俺、もう無理だ。」
冷たい声だったのを、今でも覚えてる。
翠「え?」
茈「もう限界だよ…っ、」(ぽろっ
久しぶりにちゃんと君の顔を見た。
疲れていて、隈が濃かった。
きっと葛藤してたんだよね。
君は優しいから、放って置けなかったのかなぁ。
そんなこと、わかってたはずなのに。
俺の変なプライドが、君を余計に傷つけた。
翠「なんで?」
冷たい質問をしてしまった。
茈「毎日、ご飯作っては捨てるの…、本当は辛いよ。」
優しい君が。初めて俺にSOSを出してくれた。
なのに俺は…
翠「俺だって忙しいんだよ…!」
翠「わかってるでしょ?!」
怒鳴ってしまった。
完全に八つ当たりだった。
上司に仕事を押し付けられて。
手柄を横取りされて。
今で言うパワハラ上司だ。
自分がされたからって当たっていい理由にはならないのに。
茈「仕事頑張ってるのは尊敬するけど!!」
茈「俺だって…、俺だってっ!!」
翠「俺が働かないと、2人で暮らせないの。」
翠「我慢して。」
俺は最低だ。
こんな最低男となんで優しい君は付き合ってくれたのかな。
茈「、別れよ。」
君は真剣な顔で俺の方を向いた。
茈「俺にはすちを受け止められない。」
茈「ダメな恋人でごめん。」
最後まで優しかった。
翠「っ…、」
俺は本気で茈ちゃんを好きだった。
愛してた。
だけど、意地を張ってしまった。
翠「そう。じゃあね。」
翠「出ていって。」
君は悲しそうな顔をしたよね。
茈「すち。」
翠「なに?」
茈「ごめん、なんでもない。」
茈「幸せになってね。」
茈「じゃあ。」
ガチャッ
君は最後まで悲しそうに笑ってた。
俺は、どんな顔してたかな。
俺はなんて最低な男なんだろう。
俺は立ち尽くして、意地を張ったことに後悔していた。
翠「…っ、」(ぽろぽろ
翠「今度会って、またやり直したいって伝えなきゃ…。」
翠「許されなくても、言わなきゃ…。」
数分後、LINEがきた。
送り主は茈ちゃんだった。
そこには、
ーー「すち。本当に大好きだったよ。今までありがとう。」ーー
そう書かれていた。
俺は急いで家を飛び出した。
君にもう一度愛を伝えるために。
君にちゃんと謝るために。
緊急時の時のために共有した位置情報アプリを伝って。
君の元へ向かった。
表示された場所に着くと、
たくさんの人が集まっていた。
俺は必死に茈ちゃんを探していた。
紫色の髪の毛の人が見えて、急いで駆け寄った。
でも、俺の知っている茈ちゃんじゃなかった。
血が色んなところから出ていた。
綺麗な黄色の瞳は閉じていた。
それでも、どう見ても君だった。
近くには破損した車があった。
それは交通事故であることを指していた。
俺は立ち尽くした。
なんで止めなかった。
なんで謝らなかった。
なんで追い出したんだ。
後悔なら何個でも浮かんできた。
そして分かったことがあった。
君はもう…、帰ってこない。
その事実だけが俺に帰ってきた。
数日後。
茈ちゃんの両親から呼び出しがあった。
俺は、殺されたかった。
そしたらまた君に会えるから。
でも、俺の期待とは裏腹にご両親は俺を抱きしめてくれた。
翠「…、こんにちは。」
茈母「あなたがすちくん?」
翠「はい…。」
翠「この度は本当にっ、申し訳ありませんでした、ッ」
俺は土下座する勢いで頭を下げた。
茈母「顔をあげて。」
茈父「君のせいじゃないさ。」
2人とも、目が腫れていて、たくさん泣いたことが分かった。
2人とも、茈ちゃんのように優しかった。
茈ちゃんは、2人に大事に育ててもらったんだな。
その事実が手に取るように分かった。
だから、余計に俺は罪悪感で押しつぶされそうになった。
俺が悪いのに。
俺に泣く資格なんかないのに。
2人に優しく抱きしめられながら俺は何時間も涙を流し続けた。
翠「ごめんなさい…。ごめんなさい…っ」(ぽろぽろ
茈母「謝らないでいいのよ…。」(さすさす
茈父「いるまからたくさん君の話を聞いたよ。」
茈母「たくさん仕事を頑張っていて、」
茈父「俺のことを愛してくれてるんだ。」
茈母「何度も何度も。会うたびに言っていたわ。」
茈父「死因は交通事故だ。避けようのないことだ。」
茈母「今回は誰も悪くないの。」
2人はとても優しい顔をしていた。
俺にとって、その優しさは、
本来は受け取ってはいけないものだった。
茈母「ねぇ、すちくん。」
翠「…、なんでしょう、?」
茈母「私たちの大事な息子を、愛してくれてありがとう。」
茈父「ありがとう。」
翠「っ、」(ぽろっ
茈父「男の子と付き合うと聞いた時は驚いたが…」
茈父「相手が君で本当に良かったよ。」
そういってもらえるより嬉しいものは金輪際無いだろうな。
そう思った。
茈母「良かったら、お骨を貰ってくれないかしら。」
翠「ぇ…?」
茈母「きっと、あの子も喜ぶと思うの。」
茈父「その通りだな。」
翠「いいんですか…、?」
茈父「もちろんだ。ありがとう。」
翠「ありがとうございます。」
茈母「そうだ。線香をあげて行ってくれないかな?」
翠「俺でよければ…。」
茈母「ありがとう。着いてきて。」
翠「はい。」(とてとて
茈母「ここよ。おねがいね。」(にこっ
ドアを開けると、茈ちゃんの写真が飾ってあった。
俺の大好きな笑顔だった。
俺の大好きな、君の瞳だった。
翠「っ、…」(ぽろっ
涙が止まらなくなった。
もう一度君に会いたい。
もう一度話したい。
もう一度笑顔が見たい。
ちゃんと…謝りたい。
君のご飯が食べたい。
涙が止まらなくなった。
翠「ごめん。ごめんね。」
翠「気持ちを考えられてなかった。」
翠「本当にごめんね。」(ぽろぽろ
俺は震える足で、仏壇の前に正座した。
線香を手に取り、火をつける。
カチャッ
ライターの音がする。
ボワッ
線香に火がついた。
そっと、そっと、
高炉に線香を立てた。
煙がふわふわと漂う。
君の笑顔が煙越しに見えた。
翠「もう、会えないのかな…」
まだ実感がなかった。
すぐにまた、会える気がした。
いや、そう願っているだけなのかな…。
気がつくと、あれだけ長かった線香が半分以下に減っていた。
急いでお鈴を鳴らし、手を合わせた。
チーン
綺麗な透き通る音が部屋に響く。
ーー本当にごめんなさい。また、会えますように。ーー
そう心の中で唱える。
写真の君を見つめると、君はさっきとは違う、
寂しそうな笑顔になった。そんな気がした。
翠「俺も大好きだよ。」
そう告げて部屋を出た。
翠「ありがとうございました。」
茈母「来てくれてありがとう。」
茈父「また、いつでもきてくれ。」
翠「失礼します。」(ぺこっ
ーーーーーーーーーー
そんなことがあってから2年。
今日は8月13日。
君が帰ってくる日だ。
ナスときゅうりに爪楊枝を刺し、
精霊馬と精霊牛を作る。
足の速い馬に乗って、なるべく早くうちに来てね。
足の遅い牛に乗って、たくさんのお土産を持って、あの世にはゆっくり帰ってね。
そんな意味があるらしい。
翠「はぁ…、」
ため息をひとつ。
君は俺たちの家に帰ってきてくれるのだろうか。
帰ってきてくれないんじゃ無いかな。
俺の中で答えを出した。
こんなひどいことをした奴の家に帰ってきたいと思わないだろう。
それでも、俺は君を迎える準備をした。
線香に火をつけて、外に出た。
君が、俺達の家がここだとわかるように。
迷うことなく帰ってこれるように。
帰ってきたく無いなら、帰ってこなくてもいいよ。
でも、俺の中で帰ってきたって勘違いさせて。
1年で4日間。
君がきてくれるこの時期。
俺が出て行けって言ったのに。
今度は帰ってこいだなんて、都合が良すぎるよね。
写真の中の君を見つめる。
こうやって、2人で花火したよね。
綺麗だったよね。
スイカ割りもしたよね。
間違えて俺のこと叩きそうになったんだっけ。
ねぇ。帰ってきてくれてもいいんだよ。
嘘って言ってよ。
ただいまって。また帰ってきてよ。
茈ちゃん。
って、追い出した俺にこんなこと言う権利無いか…、笑
煙もたけたところで、家に入る。
夏なのに、外は寒かった。
夜だからかな。
家はあったかい。
でも、君がそばにいないから。
俺の心はすごく寒い。
今日は、2人分ご飯を作った。
4日間はそうするつもり。
君が生前、してくれようとしたことを。
遅いけど、今させてね。
君のために作ったのに、食べてもらえなかったご飯を片付ける。
翠「あぁ…こんな気持ちだったんだ。」
寂しい。
悲しい。
食べて欲しかった。
言葉では表せない気持ちが俺の周りをぐるぐる回ってる。
翠「そっかぁ…」
君はこんなにも辛かったんだ。
たくさん我慢させたよね。
本当にごめんね。
ーー数日後
翠「もう、終わりか…」
今日は8月16日。
少し肌寒くなった夜。
五山送り火の配信を見終えた。
わかってる。
もう今日が終わることを。
それでも、君にここにいてほしい。
あの世にかえってほしくない。
早く、君を帰してあげないと行けないこと、わかってる。
でも、でも…、!!
君と離れたくないよ。
送り火した方が…
君が安全に帰れる事、知ってる。
それでも…っ、!
君とずっといたい。
君と離れたく無い。
ずっと…、この家に2人でいたい…っ
そっか…
俺、こんなに君が好きだったんだ。
今更気づいたって遅いのに…っ
翠「ねぇ、茈ちゃん。」
自分でも驚くほど、声は震えていて。
翠「帰ってきてくれたかなぁ…?」
涙声で。
翠「俺の恋人になってくれてありがとう。」
涙が止まらない。
翠「酷いことして本当にごめんなさい。」
こんなに愛おしい存在だったんだ。
一緒に暮らせることが本当に幸せだったんだ。
俺はそれを自ら壊したんだ。
翠「本当に俺は…、最低だ、ッ」(ぽろぽろ
ーーそんなことないよ。
翠「へ、っ、?」(きょろきょろ
君の声が聞こえた気がした。
優しくて、かっこいい君の声。
忘れるはずがない。
間違えるはずもない。
幻聴かな、?
幻聴だったとしても…俺は信じたいな。
君が帰ってきてくれたって。
それで、また帰ってきてくれるって。
そばにいなくても大丈夫だ。
俺の記憶が消えない限り。
茈ちゃんは永遠に生きてる。
翠「いるまちゃん。愛してるよ。」
翠「また帰ってきてね…!」(ぽろっ
後悔はまだ絶えない。
俺のそばにいてほしい気持ちも消えない。
それでも、俺が一歩踏み出さなきゃ。
じゃないときっと茈ちゃんが心配しちゃう。
君は優しいから…、成仏できなくなっちゃいそうだな。
俺なら大丈夫だ。
思い出がたくさんある。
喧嘩もしたけど、
幸せな思い出で溢れてるんだもん。
そろそろ踏み出せ、俺。
茈ちゃんならきっと、見守ってくれてる。
翠「ありがとう。大好き!」(にこっ
写真の君が微笑んだ。
そんな気がした。
俺は線香を持った。
火をつけて、玄関へ向かう。
茈ちゃんが、無事に帰れますように。
また来年に、会えますように。
ガチャッ
翠「また来年。」
翠「愛してるよ。」(にこっ
煙が舞う。
綺麗に笑う君の顔が思い浮かぶ。
寂しい。
でも一歩踏み出せた。
その事実が。
俺を奮い立たせる。
俺のした事は許されない。
たった1人の、大切な恋人を傷つけた。
許してもらおうとも思わない。
それでも、俺にも愛す権利がある。
だから、俺は君を愛し続ける。
ありがとう。
俺を好きになってくれて。
ご飯を作ってくれて。
帰ってきてくれてありがとう。
ゆっくり、怪我しないように、
帰ってね。
それでまた、来年。
あいにきてね。
愛してる。
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コメント
5件
読ませていただきました……本当に、切なくて胸が苦しくなりました。すちさんの後悔や「あの時こうしていれば」という思いがひしひしと伝わってきて、特に毎日作っては捨てられていたご飯のエピソードが心に刺さりました。それでも最後に「また来年」と前に進もうとする姿に、涙が止まらなかったです。お盆の精霊馬や送り火の描写も美しくて、愛しい人の存在を感じながら生きていく強さを教えてもらいました。本当に素敵な作品をありがとうございます。