「翔太、あの…今日、実は…」
「うん、知ってる。ふっかさん家に行くんでしょ?行ってらっしゃい…」
一応、渡辺にも言っておこうと
自宅を訪ね…話を切り出したら
先読みされたのか…挙げ句の果てには【行ってらっしゃい】とまで言われてしまった
「ねぇ、翔太…」
背中を向けてしまった渡辺に
【何でこの可愛い人は、こんなに素直じゃ無いんだろう…】と愛しくなって、背中から抱き付いた
「ちょっ…何?離してよ!」
「絶対、嫌」
気にしているのが丸わかりで、思わず顔がニヤけてしまう
「何で嬉しそうなの!もう、離して!」
「だって、ヤキモチ妬いてくれてるんでしょ?凄く嬉しい」
そう言うと、面白くなさそうな顔をして
「照が居ない間に、俺も目黒と遊びに行こうかな〜」
何て、呟いている
「それは駄目…」
「何でだよ!何しようと俺の勝手だろ?」
せっかくの2人揃ってのオフの日を、目黒に取られてなるものか…
目黒本人が仕事なのかオフなのか…全く確認してはいないものの
勝手にライバル認定して、ヤキモチを妬く…
抱き付く岩本、引き剥がそうとする渡辺…
【今頃は仕事場でクシャミしているかも知れないな…】
渡辺は岩本の腕の中で…ぼんやりと目黒の事を考えていた
◇◆◇◆
「待たせて悪い…」
「気にしないで良いよ…何か飲む?」
冷たいお茶を出してもらい、一口だけそれを飲む…
「それで…何を聞かせてもらえるのかな?」
深澤の言葉に頷いた岩本が、渡辺との馴れ初めを話し出す
「………」
大人しく最後まで聞いていた深澤だったが
「ねぇ、それって…」
難しい顔をして話し出す
「俺の時と同じ様に、同情してるだけじゃ無いの?翔太が何かの理由で弱ってて…それに気付いた照が同情して…一緒に居る内に、情が移って勘違いしてるとか…そういうのって庇護欲って言うんだよ?」
「庇護欲…」
確かに、最初は言われる通り【守って、元気付けてあげたい】そう思っていた
けれど、今は…
「あの時とは、何もかもが違うんだ…。あの時は、告白されて…流されて…お互い不安だったのに、このままじゃ駄目だって分かってたのに、何も出来なくて…」
「………」
「だけど、今は違うんだ…。俺から動いて色々誘って…翔太に、もう1人で大丈夫って言われたのに…受け入れたく無くて告白して…」
「………」
「本当に、あの時の俺は、無責任だったって思ってる…」
深く頭を下げて、許しをこう
続けるにしても別れるにしても、全て深澤に任せてしまって…真っ直ぐ向き合わなかった事を恥じている
「………」
頭を上げようとしない岩本に、観念した様に溜息をひとつ吐くと…
「照の気持ちは良く分かった…ちゃんと好きなんだね、翔太の事…」
深澤の問いに、顔を上げた岩本がハッキリと頷く
「その気持ちは分かるよ…人を好きになる、その気持ち…理屈じゃ無いんだよね」
ゆっくりとそう告げると、何かを思い出しているのか
少しだけ、視線を逸らし微笑んだ
「………」
あの時、深澤は確かに俺にそれを伝えていてくれた…
それに気づこうとしなかったのは、自分の落ち度
「ほら、そんな顔しない!」
そう言った目は、しっかりとこちらを見つめていて
「でも、俺…」
「行くんでしょ?翔太の所…」
そう言われて、静かに頷く
「好きなんでしょ、翔太の事」
再度頷いて、見つめ合う
「行って来る。今までありがとう」
「どういたしまして」
どちらからとも無く、笑顔になって…笑い合い
早く行けと促される
こうして2人の恋愛は、今度こそ円満に幕を閉じた
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ふっかさんは何か事情を知ってるんだね…。