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MAKO
ベリアン視点
新しい主様が現れた。
ベリアンが主の部屋で出迎えると、小柄な女性はポカーンとした表情でベリアンを見つめて部屋の中をキョロキョロと見回し、自分の状況を確認していた。
「よろしければ、紅茶などいかがでしょうか?」
ベリアンは少し落ち着いてもらおうと紅茶を勧めた。
主様は紅茶は好きだったようで、砂糖をまあまあの量入れて嬉しそうに啜った。
『・・・こんないい感じの夢なんて久しぶりだなぁ』
主様はこの状況が信じられず、夢だと思っているらしい。
これは現実で、あなたは悪魔執事の主で、天使狩りに協力してほしい、と言うことを説明してみるも上の空の様子で、カップを持ち上げたまま固まっている。
「・・・お口に合いませんでしたか?」
主様にそう声を掛けるとようやくハッとしたようにこちらを見て、慌てて返事をした。
『え?ううん、すごく美味しいよ!
・・・こんなに美味しい紅茶飲んだこと無いなぁ・・・
・・・飲んだこと無いのに何で夢に出てくるんだろ?』
しかし、まだ混乱しているようだ。
「主様、これは現実ですよ」
『う〜ん、いや、でもなぁ・・・』
中々受け入れてくれない様子だった主様に不安を覚えるが、できることがあるなら協力する、何かあったら呼んでくれと言って元の世界に戻っていった。
とりあえず、天使狩りに協力する気はあるようなので一安心だ。
他の執事たちにも主様が現れたことと、恐らく協力してくれるであろうことを伝え、今晩こちらに泊まると言われても大丈夫なようにベッドメイキングを丁寧にしておいた。
その晩、主様がいくつかの鞄と白っぽい袋を手に現れた。
「主様、お帰りなさいませ・・・そちらのお荷物は?」
ついその荷物について尋ねると気まずそうな顔をされたので、しまったと思った。女性だし、見られたくないものもあったろう。なぜそんなことも気付かなかったのか、と後悔する。
『あの〜、すごく図々しいんだけど、こっちに居たら食費とか浮くなぁって思って・・・着替えとか持ってきました・・・』
しかし、主様が口にした言葉は予想外のもので驚いた。
つまり、こちらで生活しようとしている?
「!?え、よろしいのですか!?」
ついまた本音が口から飛び出してしまう。
『え、タダメシ食わせてって言ってるんだよ?』
主様は私の反応に驚いて、少々荒い言葉が出てしまっていた。
それに、屋敷に留まることを迷惑だと思っているような口ぶりだ。
「いえいえ!私達は主様のお世話をすることが喜びなのです。そんなことを仰らないでください!」
主様が屋敷に居ることは執事たちにとって喜ばしい事だと伝えると、少し安心した様子で頭を下げた。
『あ、はい・・・じゃあ、あの、お世話になります・・・』
今晩の食事は必要ないとのことだったので、明日の朝から主様の食事を用意するようにロノに伝えた。
ロノ視点
「え!本当ですか!?やったぜ!
明日から張り切って作ります!!」
明日の朝から主様の食事を作って欲しいとベリアンに言われたロノは嬉しそうに仕込みを始めた。
主様に出すものだから、いつもより丁寧に見た目も美しく、と考える。
「やっぱり、主様のお食事は気合が入るなぁ〜!」
ウキウキしながらスープは?付け合せは?ドレッシングは?と今ある材料で一番良いものを考えていく。
「うん!これなら絶対美味いはず!
・・・今夜は寝られないかもなぁ」
弾む胸を押さえながら寝室に戻る。
矢鱈と機嫌が良いロノが鬱陶しいようで、バスティンはいつも以上にロノを見る目が鋭い。
「・・・ロノ、うるさい」
「何も言ってねぇだろ!?」
「顔がうるさい」
「はあ!?」
失礼なことを言ってくるバスティンと喧嘩していると、ベリアンが止めに入ってくれた。
「ほらほら、二人共・・・明日の朝からは主様のお食事の用意があるのですから、寝坊しないように早く寝てくださいね」
「「はーい」」
ベッドに入ってもロノはなかなか寝付けず、朝もいつもより少し早く起きてしまった。
バスティンを叩き起こし、気合を入れて朝食の支度に取り掛かる。
贅沢で美味しい朝食を準備し、ワクワクしながら主様の部屋に持っていった。
ベッドでぐっすり眠っている主様に声を掛けて起こした。
「おはようございます!朝食お持ちしました!!」
主様はもぞもぞと動いて、顔だけこちらに向けて挨拶を返してくれたを
『あ・・・おはようございます・・・』
「おはようございます!主様!
俺はロノ・フォンテーヌっていいます!
調理担当なんで、朝食をお持ちしました!」
元気に自己紹介をし、朝食を勧める。
主様はまだ眠たいようで、しばらくまたもぞもぞしてからのそりと起き上がった。
豪華な食事にびっくりしたようで、しばらく料理の一つ一つを見ていた。
「い、いただきます・・・」
小さくそう言うと、フォークを持って食べ始めた。
パンと卵は気に入ったらしくパクパクと食べていたが、スープと付け合せの豆はあまり好みでなかったようだ。
若干眉が寄っているし、ペースも遅めだ。
『・・・美味しいよ』
しかし、気を使っているのか美味しいと言っている。
何とか完食した主様は申し訳なさそうにロノを見上げた。
『ありがとう・・・あの、でもちょっと・・・量が多いかも、です・・・』
口に合わなかったというよりは、量が多くて困っていたようだ。
食べ過ぎて苦しくなってしまったのか、顔色が悪いような・・・?
「すみません、主様華奢ですもんね・・・」
小柄な女性に出す量としては確かに多めだったかもしれない、と反省しつつ皿を下げる。
『あはは・・・ごめん・・・』
主様はロノと視線を合わせようとせず、取り繕うようにそれだけ言った。
バスティン視点
朝食の皿を下げてきたロノは、持っていったときのワクワク感が消えていて少し元気がないように見えた。
「・・・主様は全部食べたようだな」
完食したらしい皿を見てそう声を掛けた。
「ん、まぁな・・・でも、量多かったみたいで、苦しそうにしてたんだよなぁ。
無理して全部食わなくても・・・いや、残されるのは嫌だけど・・・う〜ん、なんだろうな・・・」
ロノは完食してくれたことは嬉しいが、無理して食べていたことが気になっているらしい。
「・・・昼は量を少なめにするのか?」
「ああ、主様もちょっと多いって言ってたからな」
「分かった」
「あ、昼はお前が持っていけよ。
まだ挨拶してないんだろ?」
「ああ・・・面倒だが行ってくる」
「小さめで大人しい感じの人だから、そんな面倒なことないと思うけどな・・・」
「そうか」
皿を洗いながらそんな話をしているうちに、ロノは昼食の支度を始めている。
手早く皿を拭いて片付け、バスティンも野菜の皮むきを始めた。
ホットサンドとスープを持って、主様の部屋を訪ねた。
主様はベッドから出て着替え終わったところのようだった。
「失礼する、主様。昼食を持ってきた」
『あ、ありがとうございます・・・』
主様はこういう待遇に慣れていない様子で居心地が悪そうだ。
料理をテーブルに置くと、じっと眺めている。
「・・・食べないのか?」
『え、あ、ええと・・・食べます・・・』
主様はあまり気が進まない様子で食べ始めた。
1つ目のホットサンドの半分ほど食べた辺りから目が死に始め、2つ目のホットサンドは若干えづきながら飲み込んでいた。
スープで流し込み、流石にもう無理だと思ったらしく最後の一つのホットサンドには手を付けないまま食事を終えた。
『・・・ごめん、もうお腹いっぱい・・・』
「・・・そうか」
朝無理して食べたせいであまり腹が減っていなかったのかもしれない、と考えながら皿を下げる。
主様の顔をちらりと見ると、明らかに血色が悪い。
「主様、具合が悪いのか?」
ついそう口に出してしまった。
『あ・・・えっと・・・』
「顔色も悪い、隈もできている」
言い淀む主様に体調が優れないのを隠しているのかと思い、畳み掛ける。
『あぁ・・・う〜ん、ちょっと調子が悪いっていうか、元気が出ないっていうか・・・そんな感じ・・・』
どうやら深刻な状態ではないらしい。
「元気がないときは肉だな。今夜は肉料理にしよう」
それならば肉を食べれば元気が出るだろうと1人頷く。
『あの、お名前、聞いてもいいですか?』
主様は急にバスティンの名前を知りたいと言い出した。
そう言えば自己紹介もしていなかったことを思い出し、慌てて名乗る。
「あ、済まない・・・バスティン・ケリーだ。飼育係と調理係補佐をしている」
予想外の仕事をしていたらしく、主様は目が丸くなった。
『飼育係、というと・・・?』
「馬の世話をしている」
『うま・・・!?』
馬の世話をしているのも予想外だったらしく、また目が丸くなった。
「興味があれば、馬小屋に行ってみたらいい」
『うん、ありがとう・・・』
まだ少しびっくりした顔をしている主様と特に話すことがなかったので、皿を下げて部屋から出た。
厨房に戻るとベリアンさんとロノが話していた。
「あ、バスティン戻ってきましたよ」
「バスティン君、主様はどうでしたか?」
「ああ、腹がいっぱいで全部は食べられないと1つ残していた」
「・・・そうですか」
「あれぇ、まだ多かったのか?」
主様がどのくらい食べられるのか分からないので夕飯も少なめにして様子を見ることになった。
「あと、体調が悪い訳では無いが、調子が悪いとか元気が出ないとか、そういう感じらしい」
「う〜ん・・・じゃあ、元気になれそうなメシ食わせてやらないとだな・・・」
「一度ルカスさんに相談してみましょう・・・」
やる気を出しているロノと心配でたまらないという表情のベリアン。
2人の態度が正反対でなかなかおもしろい。
「ロノ、肉がいいと思う」
「お前が食いたいだけだろ」
お決まりの言い合いをしたが、ロノは肉を出してきたので考えることはあまり変わらないのかもしれない。
心配性なベリアンさんはお茶をお持ちして様子を見てくる、と落ち着きなく厨房を出ていった。
ベリアン視点
主様にお茶をお持ちすると、嬉しそうにしていた。
部屋から出ていない様子だったので書庫を案内すると、すぐに色々な本棚を見て回り面白そうな本を探し始めた。
しばらく悩んでいた様子だったが、童話集を何冊か持っていくことにしたらしい。
お茶を飲みながら読書をしている主様の邪魔にならないように、夕飯までは1人にしておいたほうがいいと判断して下がった。
夕飯は食堂でとってもらうことにした。
緊張している様子の主様はあまり料理を味わえていないようだ。
せっかくのローストビーフも機械的に口に運ぶだけで、表情に変化が見られない。
「・・・あの、美味しくないですか?」
ロノ君が我慢できなくなって主様に直接味の感想を求めてしまった。
確かに不安になる気持ちは分かるが、執事としてはあまりよろしくない言動だ。
『え?おいしいよ?』
主様は気分を害した様子はなく、むしろどうしてそんなことを訊かれたのかと驚いているような顔をしていた。
『・・・ごめん』
少し間が空いて呟くように言った謝罪は、誰に向けての言葉だったのか・・・。
食後、お風呂に案内したときも、お風呂から上がって部屋までエスコートしたときも、お休みの挨拶をしたときも、主様は口角だけを引き上げたような、不自然な笑顔を作っていた。
どうやら無表情で食事をしていたことでロノ君を不安にさせてしまったため、できるだけ笑顔を見せるようにしているらしい。
「お休みなさい・・・」
ドアの隙間から貼り付けた笑みが落ちた、主様の死んだ目を見て、ベリアンは只事ではないのではないかと心配になる。
すぐにルカスさんに相談しなくては、と3階へ駆け上がっていったのだった。
コメント
1件
ああ、第3話、すごく好きな雰囲気でした…! 主様が「夢だと思ってる」っていう感覚、すごく分かるし、ベリアンが「これは現実ですよ」って優しく返すのがもう…じんわりきますね。 それにロノの「主様のためなら!」ってウキウキな感じと、バスティンのストレートな物言いのギャップが面白くて。 でも一番気になったのは、主様の「無理して笑ってる感じ」と「死んだ目」。それがベリアンや他の執事たちにどう響くのか、すごく気になります。 次が待ち遠しいです…!