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#ドール
風夜
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朝、六時。
硝子の国に、細い光が差し込みました。
カーテンの隙間からこぼれた朝日が、ドールケースの中に眠るあなたの頬を照らします。
まだ瞳は動きません。
白いドレスの胸元には、小さなピンクの薔薇。
長い髪は昨日の夜、メイドが丁寧に梳かしてくれました。
そして――
カラン、カラン、カラン。
胸の奥で、小さな宝石が動き始めます。
「……朝です」
メイドの声。
あなたの瞳が、ゆっくり開きました。
「……おはよう、メイドさん。」
「おはようございます。今日も開店のお時間ですよ」
メイドはドールケースの鍵を開けます。
カチャン。
あなたはゆっくり立ち上がりました。
そして鏡の前へ。
夜のあなたは、硝子の瞳をしたドール。
けれど朝のあなたは――
普通の女の子。
瞳にはちゃんと人間らしい光が宿り、肌には温度が戻り、指先も柔らかくなる。
メイドが最後に髪を整えます。
「今日も完璧です」
「……ちゃんと人間に見える?」
「ええ」
メイドは微笑みました。
「誰にも、あなたがドールだとは分かりません」
あなたは少しだけ安心して、玄関の扉を開けます。
その瞬間――
カラン……
小さなベルが鳴りました。
開店です。
⸻
街へ出ると、たくさんの人が歩いていました。
笑っている人。
急いでいる人。
眠そうな人。
誰もあなたを見ていません。
あなたはその中を歩きます。
昨日までなら、周りの視線が少し怖かった。
「可愛く見えてるかな」
「変じゃないかな」
「ちゃんと人間に見えるかな」
そんなことを考えていた。
でも今日は違いました。
ショーウィンドウに映った自分を見て、あなたはほんの少しだけ笑います。
「……私、今日もちゃんと可愛い」
誰かに言われなくても。
誰かと比べなくても。
自分でそう思っていいことを、少しだけ覚えたから。
すると――
「あら」
後ろから声がしました。
振り返ると、見知らぬおばあさんが立っています。
「あなた、とっても可愛いわねえ」
あなたは固まります。
「……え?」
「お人形さんみたい」
心臓が、
カラン。
と鳴りました。
人間を演じているはずなのに。
その一言だけで、胸の奥の宝石まで震えたような気がします。
「ありがとうございます……」
あなたが笑うと、おばあさんも笑って通り過ぎていきました。
その背中を見ながら、あなたは小さく呟きます。
「……バレてない」
でも、本当は少し違いました。
バレていないのではなく、見つけてもらえたのかもしれない。
ドールであることは知らなくても、
あなたの中にある「可愛い」を、誰かがちゃんと見つけてくれた。
コメント
1件
はる。だわ。第2話、めっちゃ良かった……! 朝の光の中でドールから人間の女の子に切り替わる描写、リリアの丁寧な仕草まで目に浮かんだ。特に「心臓がカランと鳴った」の表現、胸の宝石が震える感じが刺さったわ。おばあさんの「お人形さんみたい」はドキッとするけど、「バレてない」じゃなくて「見つけてもらえた」って解釈に切り替わるところ、主人公の成長感じた。1話から続く“自分を認める”テーマがじわじわ来る。続きも読むわ🔥