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「完全に出遅れちゃったね~」
「レフ、余計な事言うな」
ディオンは少し離れた場所からリディアとマリウスを見ていた。実はラザールが現れる前から壁の花になるリディアを眺めていた。
言付け通りディオンの選んだドレスを着ているのを確認して一人安堵し満足した。少々可哀想ではあるが、虫除けには丁度良い。
元婚約者の様な輩に、また一目惚れなどされたらたまったものではない。面倒だし、迷惑極まりない。まあ起こった所で、次は話が上がる前に潰してやるが。
叔父がまた勝手な真似をするなら、次は始末する。致し方がない。
そんな風に思った矢先、ラザールが現れた。流石のディオンも目を見張る。今更リディアに何の用があると言うのか。まさかこの期に及んで未練があるとでも戯言を言う訳ではあるまい……。
リディアがあの男とまともに取り合う筈はないと分かってはいるが、苛々する。それに万が一にもという事もあり得る。何しろあの莫迦な妹だ。泣き落としなどに、コロっと騙されかねない。
「……」
いや、だが今ここで直ぐに出て行くのも、嫉妬した莫迦兄の烙印を押されそうで嫌だ。格好がつかない。リディアの前では常に毅然とした格好いい兄でいたい……。
だがやはり、今直ぐにでも助け出したい。自分以外の男と共にいるリディアなど、見たくなどない。反吐が出る。妹は常に自分の側で、自分だけの為に在り、あの瞳に自分だけを映し続けて欲しい。そんな事、無理だとは承知の上だが、そう願わずにはいられない。
ーーもうそれ程までに、自分はリディアに心酔しきっている。
ディオンは、直ぐにでも駆け出したい衝動に耐えながらも、暫し様子を見守っていた。するとラザールが踵を返すリディアの腕を掴みながら顔を近付けようとしていた。流石にもう限界だ、ディオンは瞬間足を踏み出すが、一足遅かった……。意外な人物の登場に、呆気にとられた。
ディオン達の護衛対象である第二王子のマリウスだ。ディオン等が広間に到着するも肝心の本人が見当たらず探していた。だが一向に見当たらないので、面倒になり適当に時間を潰す事にしたのだ。
そもそもディオン達がいなくとも彼を終始護衛する者達が別にもいる。ディオン達が必要な時は本来式典やマリウスが城下から離れ遠方に行く時だけだ。今回は特例に近い。
故に端から必要ないのではと考えたからだ。決して職務怠慢ではない……と言い分はある。
そのマリウスだが、ラザールの頭上から何処から持って来たのかも分からない水差しの中身を盛大にぶちまけた。
当然周囲は騒然となる。
以前から変わり者だとは認識していたが、それを遥かに凌駕した。
ラザールはというと情けなく蹌踉めきながら逃げて行く。その姿は実に滑稽だが、そうさせたのが自分でない事に些か苛立ちはする。本来なら自分がリディアを助け出す筈だった。
その場に残ったマリウスは、妙に親しげにリディアと話し始める。
顔見知りなのは分かるが、何故あんなに仲睦まじそうにしているのか……。先程の事もあり苛々感は増すばかりだった。
リディアは王妃付きの侍女なので当然接点はあるだろうが、何しろ王妃とマリウスの仲は最悪だ。王太子とならいざ知れず……第二王子であるマリウスとこんなにも親密な関係など予想していなかった。
まあ、王太子だろうが第二王子であろうがリディアと親しくするのは誰だろうが、赦す事などあり得ない故、結果何も変わらないが。
「君は、悪くない。だから君がそんな顔をする必要はないんだよ。悪いのは彼だ。彼から望んだ婚約にも関わらず、彼が浮気した挙句、彼から婚約破棄をした。しかもそれだけでなく、また浮気相手に逃げられたからと君に復縁を迫るなんて人としておかしい。間違っているのは彼で、君じゃない」
ワザして広間中に響き渡る声を上げて話すマリウスの姿に、ディオンは奥歯を噛んだ。
まるでリディアの事は自分が一番理解していると言われているかのようで、気分が頗る悪かった。悔しさと苛立ちに、震えた。ディオンは苦虫を潰した様な顔になる。
「ルベルト、レフ。後頼んだから……」
「あ、おい!」
部下の二人に後の事を丸投げし、踵を返す。呼び止める声が背中越しに聞こえたが無視を決め込む。
あの二人を、これ以上見ていたくなかった。