相変わらずの部屋。
もう住まないことは伝えていたけれど、鍵はそのままポストの内側の上の面へと貼り付けたまま。
元々荷物なんて無いに等しかったけれど久しぶりに来た何も無いこの家はとても広く見えた。
昨晩は逃げ出したままこの借りていた家に1泊した。
水道止められて居なくて良かった。
さとみくんは追いかけてきたりはしなかった。
時計なんてないから時間が分からないけれど今学校は普通に授業しているはずだから取り敢えず行こうと制服に腕を通した。
久しぶりの学校。
もう何回休んだのかも分からない。
でもさとみくんとの家には帰らないと1晩じっくり考えて決めたんだ。
俺は1人でも生きていける。
大丈夫。
大丈夫。
だからまずは学校にと来たけれど教室の扉を開けるのが怖い。
扉の前でうろうろしていると授業の終わりのチャイムが鳴った。
直後開く教室の扉。
そこにいたのは友人だった。
「あれ?!莉犬じゃん」
「お前ずっと休んでたけど大丈夫だったのか…」
肩を組まれ息を飲む。
心配してくれていたのについその手を振り払ってしまった。
「あ…ごめ、俺病み上がりだから、あんま近づかない方が、いい、かも、、ごめん。」
「まじかごめん!!..あんま無理すんなよ」
「…うん」
肩を組まれた時真っ先にさとみくん以外に触って欲しくないなんて思った。
戻らないって決めたのに。
席について時間割を確認した。運良く今日は座学しか残っていない。
…元に戻せばいいだけ。
今までのさとみくんと出会う前のことをすればいいだけ。
さとみくんは今日も学校に来ているのかな、
もし来てるなら1つ上の階にさとみくんが居る。
…だめだ。会いたい。
さとみくんがストーカーだった。
俺があんなに苦しんで泣いてるのを慰める振りをしながらずっとずっと俺を追い込んできたんだ。
なんてわかってるのに。
俺はおかしくなっちゃったんだろうか。
わかんない。
ずっとずっと。
授業初めのチャイムが鳴る。
「授業始めるぞーって、莉犬」
俺がいることに気がついた先生が俺の方へと近づいてきた。
「お前ずっと休んでたから心配してたんだぞ」
椅子に座る俺に合わせて先生はしゃがむ。
その動作がさとみくんに重なって目を逸らした。
「…すいません。もう、大丈夫です、、」
「そうかそれなら良かった。休んでた分授業も進んでるが頑張れよ」
そういい俺の頭に触れる手。
口から言葉にならない声がこぼれた。
やめて。触らないで。
俺の頭を撫でていいのはさとみくんだけなの
「ぃ、あ、」
先程とは違う。誤魔化しの効かない勢いでその手を振り払った。
上がった心拍数を下げるために呼吸を繰り返す。
けれど呼吸をしようとすればするほど焦りでどんどんまともに呼吸ができなくなってく。
「お、おい莉犬大丈夫か、」
「ちょっと誰か保健室の先生呼んできて」
「過呼吸になってね、やば、」
色んな声が聞こえる。
そのどれもをまともに聞き取れはしない。
さとみくんを思い浮かべてさとみくんのくれた言葉を心の中で繰り返す。
ダメだ。
今すぐにでも会いたい。
しばらくして駆けつけてきた保健室の先生の指示を聞いてなんとかまともに呼吸ができるようになった。
久しぶりに先生の顔を見た。
俺の話を聞いてくれた先生。
前はそれだけで酷く安心した。
…でももうさとみくんじゃないとだめなの。
心配の目を無視してその場を飛び出し階段を駆け上がる。
2年1組、2組、3組、4組…
ここだ。
この教室。
授業中なんてことも忘れて教室の扉を開いた。
向けられた生徒の冷たい視線なんてどうでもよかった。
先生の慌てた声もスルーして、見つけたさとみくんの元に一直線に近づいた。
「さとみくんさとみくんさとみくん」
肩に顔を埋める。
「..おれやっぱりさとみくんじゃないとダメだ」
離れられないと言われた時そんなことないって言い返したけど、
俺はとっくの昔に気づいていたじゃないか
自分を安心させるように何度も心の中で言葉を往復をしてきたのに
さとみくんがストーカーだからなんなんだ
さとみくんがどれだけ酷くて最低だったとしても俺は結局離れられないし逃げられない。
俺が馬鹿だっただけ。
暖かい手のひらが俺の頭を撫でる。
「…帰ろうか」
優しい声がして安堵で泣いてしまった。
「先生俺早退します」
俺を抱き抱えたまま歩き始めるさとみくん。
心臓が規則正しく動いている。
その音にまた安心した。
そのまま家にたどり着いてベッドへと降ろされた。
「…ね、莉犬離れられなかったでしょ」
「俺信じてたよ莉犬は俺の元に帰ってくるって」
「…ねぇ莉犬はもう俺の事嫌い?」
俺は首を横に振る。
嫌いになんてなれなかった。
嫌いになんてきっと俺が俺である限り無理な話だ。
君の傍にいないとまともに呼吸すらできないこと俺は知っていたのに。
昨日だって一睡もできやしなかったんだ。
さとみくんを怖いと思った。酷いと思った。
最低だって思った。
俺あんなに苦しかったのにって。
でも離れられるわけがない。
分からない。さとみくんの事。
それでもどうしようもなく好きになってしまったんだ。
「…さとみくん」
「なぁに」
「ぎゅーして欲しい」
「頭撫でてちゅーもして欲しい」
「いくらでもしてあげる」
寝ても覚めてもさとみくんのことばかり考えている。さとみくんのことだけを思い続けている。
これからもずっと。
昼想夜夢
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
これにて昼想夜夢完結です𐔌՞⸝⸝ʚ̴̶̷̷ · ʚ̴̶̷̷⸝⸝ ՞𐦯
ようやく書ききれました🥲
感想いいねお待ちしてます(ˆ꜆ . ̫ . ).
コメント
4件
最終回お疲れ様でした〜!! もう1話目からずっとずっと最高でした…😭😭 桃赤の依存系大好き過ぎました🥹🫶🏻
最終回まで最高でした😭🫶🏻 結局桃くんから離れられない赤くんで、桃くんもそれを分かってて追いかけなかったのかなって考えるとどこまでも桃くんが1枚上手で赤くんのためにどれだけ入念に計画を練って依存させたのかが分かりました…赤くんと桃くんが最終的に幸せならすごく良いなって思えました!最後またラブラブで甘々な2人に戻れそうでよかったです!!素敵な連載ありがとうございました〜(,,> <,,)💕