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「行く意味……あるんですか?」
静まり返った職員室で、出久がぼそりと呟いた言葉に、相澤の目が一瞬鋭く光った。
「……なにか知ってるのか、緑谷。」
その問いにうまく返せず、出久は目を逸らす。だが、すぐにごまかすように笑って首を振った。
「い、いえ、別に。ただ、怖そうだなって思って……」
結果、疑われたまま出久は調査班に組み込まれ、切島とペアになって屋敷へ向かうことになった。
屋敷は、まるで時間が止まったかのように古びていた。軋む床、風の音すらも飲み込む沈黙。
「おい、緑谷。ビビってんのか?」
「……ちょっとだけ」
出久は何度も後ろを振り返る。妙に緊張していた。
そして――
バチンッ
突然、電気が消えた。
「うわっ!? 電気が――」
その瞬間、ドンッ!
「ぐっ……!!?」
切島の体が壁に吹き飛んだ。
「……緑谷!? お前……なんで……!?」
見上げると、そこには、鋭い目つきで息を荒くした出久が立っていた。まるで“別人”のような表情。
「こっちに……来ないで……っ!」
そこに、他のA組メンバーたちが駆け込んでくる。
「出久!? どうしたの!?」
「切島、大丈夫!? えっ……え、緑谷? なんでそんな顔――」
出久が、今度はA組メンバーに向かって飛びかかろうとした、その時――
「出久……やめなさい」
奥の闇から、優しくも不思議な声が響いた。
そして――パッと灯りが戻る。
光の中に現れたのは、ひとりの可愛らしい少女だった。まるで昔の洋館の人形のような、アンティークドレスをまとった黒髪の女の子。
その姿を見た瞬間、出久の様子が一変する。
「……おねいちゃん……っ」
さっきまで怒気を放っていた彼が、まるで幼い子供のように駆け寄り、その少女にしがみついた。
「こわかったよぉ……ひとりにしないでぇ……っ」
A組はその場に凍りついた。
「えっ……誰? あの子……?」「いや、ていうか今の緑谷……なんで、ちっちゃくなって……?」
そこにいたのはもう、彼らの知るヒーロー候補・緑谷出久ではなかった。
それは、過去に封じられていた**“幼い出久”。
そして――この屋敷に残された記憶の亡霊**。