りなは変わった。
澪と付き合い始めてから、はっきりと分かるほど。
授業中の姿勢も、休み時間の表情も、
鏡の前での自分の目つきまで――全部。
ある日、廊下で美咲とすれ違ったとき、
美咲はりなの変化に気づいたのか、動きを止めた。
「あんた……なんか変わった?」
りなは振り返って、落ち着いた声で言う。
「変わったよ。
前みたいに泣かないし、逃げない」
美咲は言葉に詰まる。
りなは微笑んだ。
「もう私、いじめられてた頃の私じゃないから」
美咲は何も言い返せなかった。
その後ろで澪が小さく微笑む。
(見返した、ちゃんと)
(でもそれは、復讐じゃなくて……)
りなは澪の手をそっと握る。
(澪と出会って、自分を好きになれたから)
昼下がりの校庭を歩きながら、
澪が横でぽつりと言った。
「りな、最近……すごく綺麗」
「え、なに急に……!」
「前から思ってたけど。
でも今は、もっと」
顔が真っ赤になる。
「澪だってかっこよくなってるよ……
恋人補正とかじゃなくて」
澪は少し照れたように目をそらす。
繋いだ手の温度が心地よくて、
この世界のどこよりも安心できる場所だった。
りなは思った。
(いじめられて、傷ついて……
それでも変わりたいって思って……
ここまで来れたのは——)
(澪がいたから)
太陽の光が二人の影を重ねて伸ばしていく。
「澪、これからも一緒にいてね?」
「もちろん。りなのこと……ずっと好き」
その答えは迷いも曇りもなくて、
りなの胸はまた熱くなった。
りなは澪の肩に頭を乗せた。
「……あたしも。ずっと好き」
静かな校庭に、二人だけの影が寄り添い続ける。
これが、
りなの新しい人生の始まりだった。
— 完 —
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