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スポットライトが照らす中、風磨の目だけが、台詞以上の言葉を語っていた。
すれ違うシーン。ふいに指が掠れる。観客には見えないように、ほんの一瞬、指先で小指を絡め取られた。
「……!」
その一瞬のタッチに、体が跳ねそうになる。けれど、演技を止めることはできない。
台詞が続く中、風磨が静かに口を動かした。
「俺のだろ?」
音に出さずに、それだけを囁くように言った。
元貴は台詞を繋げながら、唇をかすかに引き結ぶしかできなかった。観客には絶対に伝わらない、ふたりだけの“演出”。
けれど確かに、心は――演技を超えて、彼に握られていた。
拍手が鳴り止まない。
カーテンコールを終えた出演者たちは、安堵と興奮の混ざる空気の中、それぞれの楽屋へと戻っていく。
「……おつかれさま」
元貴が楽屋のドアを開けた瞬間、その腕を強引に引かれた。
「っ……ふ、ふーまくん……?」
無言のまま、風磨はドアを閉め、鍵をかける。そして、背中を壁に押しつけるように、元貴の距離を詰めた。
「なあ。……なんで、他のやつにあんな顔見せてんの?」
「……は?」
「本番中、俺以外の相手に笑ってた。……“演技”だって分かってても、むかついた」
その声には、笑いがない。静かで低いトーン。けれど、瞳の奥にあったのは、明らかに“怒り”だった。
「……嫉妬? ……バカか、仕事だろあれは」
「仕事でも……おまえが“俺のもの”だって、俺の中じゃ絶対なんだよ」
そのまま、顎を掴まれる。逃げられない体勢のまま、ぐいと顔を引き寄せられ——強引に唇を奪われた。
「んっ……! や、まっ……」
「うるさい。誰かに聞かれたら困るのは、おまえだろ?」
舌が絡みつき、唾液を奪われる。甘いはずの口づけが、支配そのものだった。
「……おま、楽屋で何して……っ」
「何してるか、わかるでしょ?」
そのままシャツのボタンを外され、鎖骨に舌が這う。ぞわりと背筋が粟立つ感覚に、足が震える。
「やだって言っても止めないよ。さっきの舞台のぶん、ちゃんと“罰”受けてもらうから」
「……ほんと、最低……」
「うん。最低で、独占欲強くて……でも、抱かれながらイってたの、どこの誰だったっけ?」
舌でなぞられた痕が、じんわり熱を持ち始める。
そのとき——
「……大森くん? 入っていい?」
ノックと共に、共演者の声が楽屋の外から響いた。
一瞬、空気が凍る。
「……っやば……おい離れろって!」
「無理。……ほら、小声で“俺はふーまくんのものです”って言って?」
「ふざけんな、バカ……!」
「……じゃあ、このまま声、出るようにするけど?」
「っっ…俺、は…ふーまくんの……もの、だよ……!」
風磨はようやく満足そうに体を離し、シャツの襟を整えてやった。
「よく言えました。……じゃ、出ていいよ。俺はこっちに隠れとく」
「……最悪……」
震える足でドアに向かうとき、大森元貴の頬にはまだ、風磨のキスの痕が熱を帯びていた。