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「ほっ!」
べしっ
ネフテリアは横から襲い来る鞭を、あろうことか空中を蹴って宙がえりしながら蹴り上げた。
鞭はパーツに繋がっている紐に当たり、パーツの動きを阻害する。
「むっ……」
迎撃される可能性は考えていたが、まさか自分の攻撃を利用されるとは思わなかったムームー。少し判断が鈍り、パーツでの追撃が上手くいかない。
蹴った時に耐性を崩し、空中で逆さまになっているネフテリアは、そのままクルッと回転し、再度空中に足場を作って立ち直る。もちろん自分への追撃を防ぐために、ムームーに魔法を撃つ事は忘れない。
「あーもう、うっとーしい! 動きづらいったら……!」
「なんでそこまでして脱がしにかかってくるんですか」
「ムカついたからに決まってんでしょーが!」
「ひええ」
怯えるムームーと怒るネフテリアを見て、これはもう魔王女様の勝ちだなと、次のターゲットであるハーガリアンとレジスタンスが覚悟を決めて、どうやって魔法に対抗するかを考え始めた。
しかし、観戦しながらアリエッタに小さな粒状のおやつを指で摘まんで与えて、合理的にアリエッタの口に触れて楽しんでいるパフィは、違う考えに至っていた。
(ん-、テリアが追い詰められているのよ? ムームー何かしかけてるのよ?)
「あうむぅ……」(なんで口の中に指入れてくるのぱひー。粉砂糖も舐めろって事かなぁ……いいのかなぁ、汚れちゃうよ?)
(んほっ、やわらかいのよぉ、たまんないのよぉ♡)
ネフテリアは急に動くのを止め、不規則に飛来するパーツに注意を払いながら、ムームーに向かって魔法を放つ。
「【水の弾】!」
しかしムームーはあっさりとそれを躱した。空中を滑るように移動して。
「いきなり【空跳躍】の真似すんな!」
「なんか出来ちゃったんですし、いいじゃないですか!」
言い返しながら再び鞭を振るう。どうやら咄嗟の行動で新しい移動方法が生まれたようだ。
一瞬何かに迷ったネフテリアだが、そのまま落下に任せて下に鞭を避ける。が、
グンッ
「うあっ」
鞭を避けたネフテリアの体勢が突然崩れた。
「なんだ今の?」
「今鞭には当たらなかったよな?」
「でも横から衝撃来たみたいになったぞ、魔法の鞭なのか?」
「ナニソレ欲しい」
空中で慌てて足場を作り、なんとか持ち直すネフテリア。しかしその動きは鈍い。
「【風の刃】!」
魔法で刃を2つ飛ばした。移動中のパーツと、何も無い場所に向かって。すると、ネフテリアの動きが戻り、空中を蹴ってムームーの方に移動し始めた。
「なんかその移動ムカつくわね! わたくしより移動しやすそうだし」
「私もビックリです! でもムカつかれるのは心外です!」
空中に張った1本の糸の上を滑走し、空中を高速移動しながらも両手が自由になったムームー。バランスを取るのは難しそうだが、次の手を打ちやすくなったのは間違いない。
再度鞭を使うが、今度は降るのではなく、パーツと同じように操った。カクカクとフェイントをかけながら、ネフテリアに向かって伸びていく。
と、ここでネフテリアが、諦めの表情になった。
「もういいや……ムームー、気を抜いたら……死ぬわよ」
「え?」
諦めたのは、手加減だった。
「全部切り刻んでしまえ! 【魔刃旋渦】!」
その瞬間、ネフテリアを中心に魔力の渦が発生した。その渦は大きく膨らみ、その余波だけで辺りの建物に傷をつける。見た目程風は発生していないが、近づくと危ないようだ。
「やばっ、切れる竜巻みたいなものか!」
渦の中に魔力の刃が荒れ狂っているのが見えたムームーは糸を利用して高く跳びあがった後、慌てて新たな糸を出し、自分を囲うように巻き始めた。
やがてネフテリアを中心にした渦は広がり、ムームーを飲みこむ。ついでに辺りに浮いて様子を伺っているレジスタンス達も飲みこんだ。
「うっ、うわあああああ!!」
「あいつらっ」
下で見ているハーガリアンも、その渦がビルを傷つけたのを見ている。しかし下手に手を出しても魔法にどう対抗していいのか見当がつかないので、巻き込まれた者達を案じてその場に留まった。
そして魔力の渦は突如消滅する。
「……ふぅぅ」
渦の中心があった場所には、ちょっとだけスッキリした顔のネフテリアが空中に立っていた。
その周りには、渦に巻き込まれてズタズタに引き裂かれてしまったボディスーツをその身から落とす、レジスタンスの男達が全裸で武装したまま浮いていた。パーツは頑丈で傷がつくだけだったようだ。
「キャアアアア!!」
「うわアングル最悪……」
完璧なローアングルでそれを見たツインテール派達から悲鳴と嗚咽が漏れた。
「むぅ……」(また自慢かっ、男を失った僕への自慢かっ)
「見ちゃ駄目なのよアリエッタ。テリアめ何てことするのよ」
結局ネフテリアが怒りのままに放ったのは、大規模な脱衣魔法となってしまった。先程の言葉通り、レジスタンス達は社会的に死にそうである。
「あれ? ムームーは?」
先程までいたはずのムームーの姿が無い。巻き込まれていれば服がズタズタに引き裂かれているはずだと、男達が目を血走らせて辺りを探す。
そして全く違う方向に何かを見つけたレジスタンスが声を上げた。
「なんだあれ!?」
「ん?」
声に反応してネフテリアが振り向くと、白色の球体が猛スピードで迫っていた。
「え?」
ドムッ
避ける事を考える間もなく、それはネフテリアに直撃した。
「またあああああ!?」
まるでさっきと同じ展開だとツッコミを入れながら、球体に巻き込まれた。しかもネフテリアをくっつけたまま高速回転し続け、球体は高度を下げながら、その勢いのままビルの壁に衝突した。ネフテリアを丁度間に挟んで。
「ごっふぅ」
回転と潰された衝撃で、ネフテリアは目を回して気絶。
球体の方は、その衝撃から解放されるのと同時に、一気に解けるように分解。中からムームーが回りながら出てきた。目を回しながら。
「まわ…まわるぅうぅう」
魔力の渦から身を守るために硬質の糸を出し、自分を囲うように球体にして魔法をガード。その球体を辺りのビルに繋げる事で、外が見えないまま遠くに飛ばされるのを防いだ……が、逆にそれが災いして球体が高速回転。さらに渦に弾かれるように明後日の方向に勢いよく飛ばされた。
それが戻ってくるときに、運悪くネフテリアに直撃。糸の間に腕や服が挟まり外れなくなってしまい、くっつけたままビルに衝突した……というわけである。
目を回した2人はそのまま地面に落下。衝突した場所が地面の近くなので、2人とも無事だった。
「ダッサいのよ……」
思わずパフィがそう呟いた。
ネフテリアは自分の魔法が原因で勝手に自爆。ムームーは身を守っただけで何もせずに突撃して自爆。本人達は真面目でも、何が起こっていたか分かっていると、呆れてしまうようだ。
「仕方ないのよ。アリエッタ、行くのよ」
「はいっ」
仕方なく2人を助けにいくパフィに、アリエッタはいつも通り意味も分からず返事をするのだった。
「さて、レジスタンスの目的をハッキリ知りたいのよ」
「あのぉパフィ? その前に、なんでこんな事に?」
餅でぐるぐる巻きにされ地面に正座させられているムームーが、自分の置かれている状況を把握しきれずに質問した。その膝にはアリエッタが座っている。
(まぁこの子は軽いからいいけど……)
そんな事を考えながら、パフィの後ろを見た。そこには同じように餅に巻かれたネフテリアが、苦悶の表情になりながら正座をしている。その膝にパフィを乗せて。
「ぱふぃ…お、おも──」
ドスッ
「ほぐっ!」
脇腹に鋭めの衝撃を喰らい、呻くネフテリア。
そんな王女の姿を見て、ツインテール派達は恐れおののいた。
「王女様をあんな風にして……」
「もしかして王女より偉いヤベェお方なのか?」
「そうよね。あんなパーフェクトボディで只者なわけないわよね……」
「俺も乗られてぇ」
『わかる』
パフィに対する誤解が高まった。
ムームーに座っているアリエッタも、流石はお姫様の相方だと、無駄に誤解を深めていく。
苦しむネフテリアだが、どうしても気になる事があり、必死に口を動かした。
「あの、ぱひ……ラクス…さん……いない」
「……そういえばなのよ。ラクスさんはどうしたのよ?」
ネフテリアが暴れ出してすぐにいなくなったラクス。戦闘行為が終了しても、戻ってくる事は無かった。ネフテリアを抑える為に動いたのであれば、もう戻っている筈である。
その答えは、ハーガリアンが知っていた。
「あー……ラクスでしたら、オムツが降ってきた時に汚れたんで、泣きながら帰宅しました。大変申し訳ございませんっ!」
何故か丁寧かつ大声で、謝罪も交えて答えてくれた。
聞かなければよかった経緯を聞いてしまい、全員が微妙な表情になってしまった。
「……まぁそれは置いとくのよ」
パフィは聞かなかった事にした。
「で、レジスタンスの狙いをハッキリさせたいのよ。私達を排除するのはまぁ分かるのよ。その手段とか計画とか知りたいのよ。あとついでに本拠地とか偉い人とか」
「しれっと全部聞くね……」
ムームーのツッコミはとりあえず無視された。
「そんな事教えられるかっ! 絶対に──」
「ふぅん?」
拒否しようとしたレジスタンスの1人を、パフィが笑みを浮かべて見つめた。
「あの塔を破壊する計画を進行中であります! ツーサイド派のレジスタンスが!」
「全力で同志を売るなぁっ!」
「いやだって無理無理! あのお方に逆らうとか絶対無理だって!」
いきなり『あのお方』呼ばわりされてしまうパフィ。ネフテリアへの扱いの影響で、全員すっかり怯えているようだ。
内心ちょっと釈然としないパフィだったが、もう少し情報を聞き出す事にした。手に餅を握りながら。
「……他には?」
「急だったので特に大きな計画はありませんっ! レジスタンス同士は可能な限り不干渉となっています! あとツインテール派のリーダーはブロントのソルジャーギア総司令です!」
「はあああ!? ちょっと待てええええ!」
恐怖に支配されたレジスタンスの男は、聞いてない重要な情報まで漏らしてしまった。これにはハーガリアンも絶叫する程驚いた。