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月明かりがカーテン越しに滲んでいる。ふたりの影は、重なるように床に落ちていた。
「……」
ヴィクトールの指が、ハイネの頬にそっと触れる。
触れるだけの、それ以上は踏み込まない、静かな愛の証。
「……私に、そんな顔を見せるのは、珍しいな」
低く、優しい声だった。
ハイネは黙って目を伏せたまま、何も答えない。
その目尻に、光が宿っていた。
滲んだ涙が、堪えきれずに一筋、頬を伝う。
「……どうして、今になって……」
「……貴方を国王としてではなく、一人の、男として、見てしまうのです。」
喉の奥で震えた声が、ようやく漏れる。
「教師としても、貴方のそばにいたい。けれど、ただひとりの人間として、もっと……貴方を、知りたくなってしまう」
言葉にするほど、溢れてしまう感情。
理性では包みきれないほどの、想い。
「私は、ずるいんです……。何度も、貴方の夢にすがって……」
ヴィクトールは、静かにハイネの背を抱き寄せた。
抱きしめる腕に、迷いはなかった。
「君が夢に逃げるのなら、私は現実ごと包んでしまおう」
「……そんなことを言っては、いけません」
「言わせたのは、君の涙だよ」
もう、言い訳はできない。
ふたりの間に流れるものは、役目や責任ではなく、ただただ愛だった。
「……私、どうすれば……」
「泣きたいだけ、泣けばいい。今夜だけは――教師でも王でもなくていい」
その言葉に、とうとう堰が切れたように、ハイネの肩が震える。
静かに、静かに、泣きながら、ヴィクトールの胸に顔を埋めた。
涙の味が、キスのあとに残った。
それさえも、甘いもののように思えるほど、愛していた。