「君の音色は」(寺姫)(素敵な寺姫が書きたかった)
「やばい」そう思った時にはもう遅く。時刻は19時をすぎていた。
「……取りに帰るか。」
自分にしては珍しくない忘れ物をこんな時間にしてしまって、早く帰りたい欲を抑えながら学校へ向かって走る。
「ハァ……ハァ……。」
今はもう9月。秋の始まりと言える月ではあるが、まだ夜の蒸し暑さは無くならない。上がった息を整えながら、バレーで鍛えられた筋肉のしっかり着いた足で歩く。
「……?」
楽器の……音?
今俺が向かっている体育館からピアノのような音が聞こえる。こんな時間に誰が?吹奏楽部?いや軽音部か?疑問が次から次へとでてきたが、足はとめなかった。そうこうしているといつの間にか部室の前に着いていて、とりあえずと思い忘れ物を回収した。帰る時にもピアノのような音は聞こえていた。
「……少しだけならいいよな。」
俺は罪悪感よりも好奇心の方が勝ち、固く閉ざされていた体育館の扉を音のないように開けた。
「♪♪♫♫♪♪」
舞台の上でピアノ……いや、あれはたしか、キーボード……だったか?を演奏しているかげがひとつ。
「えっ。」
よく知った顔がそこにいて。いつもと違う雰囲気に俺は圧倒された
「姫川……?」
(綺麗)と思った。部活ではあまりみない椿原の制服に身を包んで。スラスラとキーボードの上を指が滑るその姿が。
「♪♪♫……フゥ。」
演奏が終わったのか、姫川がため息を漏らす。俺は無意識に拍手を送っていた。
「!?」
俺の拍手でこちらに気づいた姫川は、目を大きく見開き、口をはくはくとさせている。
「寺泊さ……え???」
「いい演奏だったじゃねぇか。凄かったぞ?」
率直な感想で褒めてやれば姫川も
「ありがとうございます!」
と素直に頭を下げてくれた
「なぁ。」
「はい?」
「ついでに質問いいか?」
どうせなら気になっていたことを聞いてしまおう。
「今演奏してた曲なんて曲なんだ?」
「今の曲ですか?」
「今のはmagnetっていう曲です!」
……わかんねぇ。
「あっ知らなくても仕方ないと思います……!」
俺の雰囲気から感じ取ったのか姫川がフォローしてくれる。
「どんな曲なんだ?」
「えーと……同性愛に着いて歌った曲……ですかね……。」
どうせいあい。
人生で1回は必ず聞くであろうフレーズに俺の指先が少し揺れた。
「……どうしてその曲を演奏してたんだ?」
「単純に好きなんです。」
ほお〜。帰って調べようかな。
「あと」
?
「同じ同士っていいなぁ……って。」
……何故だろう。俺の中にその言葉がストンと音を立てて落ちたような。そんな感覚がする。
(……ん?落ちた?何が?えっ?)
「ねえ……寺泊さん。」
1人で困惑していると姫川が話しかけてきた。
「おっ……あぁどうした……?」
まだ困惑したままの頭で必死に声を出して返事をした。
「あなたの」
“音色はなんですか?”
ーその瞬間、そばに椿が落ちた。ー
コメント
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やっぱり姫川きゅんはたまらんですなぁ もう神ですね!神です!