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──東京から電車で二時間弱、ビルが立ち並ぶ都会の景色から、車窓を流れる視界が次第に緑に覆われ山々が増えてくると、程なくして長野に到着した。
地元に帰るのは久しぶりで、いざ駅に降り立つと、イラストレーターになろうと勢いこんで飛び出した頃のことが思い起こされて、若かった自分に甘酸っぱさが込み上げて少しノスタルジックな気分になった──。
「山道を走っていたのは、どれくらい前だったんだい?」
「ええと……かれこれもう十年くらい前になるかもしれないです。東京へ出てイラストレーターを目指そうと思った時分に、車で峠を走ったりするようなことは止めたので。それ以降は、たまにこっちに帰った時に車を運転したりするぐらいでしたから」
彼に話しながら、遠くに連なる山を懐かしい想いで眺めた。
「そんなにか。私が無理を言ってしまい、すまなかったな……」
「いいえ」と、首を横に振る。
「山の景色を見ていたら、私も走りたい気持ちがふつふつと湧いてきたので。以前のように走れるかはわからないですけど、気持ち良くドライブが楽しめればとも思っていますから」
今日一日を彼と二人で楽しく過ごせたらいいなと、心から感じた。
駅前のレンタカーショップに寄り、やっぱり峠道を走るならとクーぺを選んで、かつてよく走っていた山へと向かった──。