アジトの一室。
任務帰りでまだ本調子じゃない葛葉を、
不破湊が半ば強制的にベッドに押し込んで看病している。
部屋は静かで、薄暗くて、
狭い空間に2人の呼吸だけが重なっている
「ほら、ちゃんと横になりな、」
不破がそっと葛葉の肩を押すと、
葛葉は素直に横になりながらも、
じわじわ頬が赤くなっていく。
「……ふわっち、近い……」
「看病だからね。近くなるのは仕方ないよ」
そう言いながら、心配を滲ませた優しい
笑みで不破は葛葉の前髪を指で払った。
その指先が額に触れただけで、
葛葉は電気が走ったみたいに身をすくめる。
「っ……そんな、優しく触れるなよ……」
「なんで?」
「なんか……落ち着かなくなる……」
不破は微笑んだ。
「落ち着かなくていいよ。
ずは可愛いから」
体温計を口にくわえさせるとき、
不破はわざと葛葉の顔を覗き込む。
息が触れ合うほど近い。
「じっとしてろよ。ほら」
「……そんな見んな……」
「見てたいから」
「ふわっち……」
葛葉の耳の先まで赤く染まっていく。
不破の顔が近すぎて、
視線をどこに向ければいいのかわからない。
「苦しくない?寒くない?」
「だいじょ、う……」
言いかけたところで、不破が突然抱き寄せた。
「っ!?ふ、ふわっち!?近い、近いってば……!」
「ずは震えてんじゃん。ほら、じっとして」
「震えてない!これは……その……」
「俺がくっつくと落ち着くでしょ?」
「お、落ち……」
落ち着くどころか、鼓動は早くなるばかりだ。
けれど、不破の腕の中は温かくて、
安心して、
どこか“ほっとする匂い”がした。
葛葉はしばらくバタバタ抵抗していたが
やがて、不破の胸元に額を押しつけるようにして
静かになった。
「……まぁ、 ふわっちの心臓の音、落ち着く……」
「ふふっ、嬉しいなぁ
ずはが可愛いこと言うから、こっちがドキドキするんだけど」
不破が葛葉の頬に触れる。
「くずは」
その声がやさしくて甘くて、
葛葉はゆっくり顔を上げる。
「……なに?」
「ちょっとだけ……していい?」
「っ……や、やだ………」
声は拒否してるけど、
目は逃げていない。
不破はゆっくり、葛葉の反応を確かめながら距離を詰めた。
「嫌なら止める。けど……くずはにげないで…?」
葛葉は赤くした顔を上げて赤い目を不破にまっすぐ向け、うなずいた
その表情、動作で不破の表情が揺れた。
そしてそっと、葛葉の額へキス。
「……っ、ん……」
くすぐったいのと、安心が同時に押し寄せてきて
葛葉の身体から力が抜けていく。
不破はその反応を大事そうに見つめながら、
もう一度、今度は頬に。
「……や、やめ」
「ほんとに?」
「……やめじゃ、ない……かも……」
小さな声で言った葛葉を見て、
不破は喉の奥で低く笑った。
「ずは、甘えるの上手になってきたじゃん」
「なってない……!」
「なってるよ。
俺の腕の中、気持ちよさそうな顔してる」
葛葉は真っ赤になりながらも、
不破の胸にぎゅっとしがみついた。
不破は葛葉の髪を撫で続け、
葛葉はとろけたように目を細めて寄りかかる。
「ねぇ、くずは」
「……なぁに……?」
「今日みたいな甘え方……俺だけにして?」
葛葉は寝ぼけたような声でぽそっと呟いた。
「ふわっちだけ……」
不破の目が一瞬だけ、
“独占”色に濡れた。
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