テラーノベル
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「ルールは単純。一番稼いだやつが勝ち! 異論ないな?」欠伸交じりにそう呟いた俺の言葉に、一瞬だけ練兵場の空気が凍りついた。
「は……? 稼いだ、ですって……!?」
真っ先に反応したのはセリスだ。美貌を激しい屈辱に歪め、握りしめた氷剣からピキピキと凍てつく冷気を撒き散らす。
「私たちが……この私が、アンタの集金道具扱いだと言うの!? 無礼にも程があるわ、ハーフの不法者が!」
「でもさー、それって面白そうじゃん!」
怒り狂うセリスの横から、シャーロットが豪快に爆発魔法の火花を散らして身を乗り出してきた。
「要するに、クロードを倒すか、そこらの高価値モンスターを横取りして一番稼げばいいんでしょ? アタシの爆破魔法で、獲物ごとクロードの小細工を吹き飛ばしてやるよ!」
「ちょっとシャーロット! アタシの雷鳴魔法のスピードなら、クロードが仕掛ける前に獲物を横取りするなんて余裕なんだからね!」
エレナの指先から激しい紫電が跳ね上がり、その影からダウナーなシエルが静かに風の刃を浮遊させながらボソリと呟く。
「……クロードを倒せば、その肩の重い袋……丸ごと横取り。効率的……」
「お前たちまで乗っかるんじゃないわよッ!!」
セリスの絶叫が夜空に響く。だが、いくら彼女が激怒しようと、四人の戦意に火がついたのは確かだった。
俺は肩の袋を近くの樹の根元にドサリと下ろし、首の骨を軽く鳴らした。
「条件は対等だ。この『黒骨の渓谷』周辺に潜む指定危険種の魔石か、俺が持つこの袋……制限時間は一時間。俺を沈めて袋を奪うも良し、俺より先に高額の獲物を狩り尽くすも良しだ」
外套の裾を押しやり、消音拳銃のグリップに指をかける。
「ただし……俺の仕掛けるトラップと、容赦ない不意打ちを凌げればの話だがな」
「――言われなくても、アンタのそのふざけた口を二度と開けないように凍らせてあげるわ!!」
セリスの叫びを合図に、四人が一斉に動き出した。
セリスの『絶対零度』の氷の刃が空気を切り裂き、エレナの『紫電』が超高速で側面へと回り込む。上空からはシャーロットの『爆破』の熱風が降り注ぎ、シエルの『風』が俺の退路を静かに消音して塞ぐ。
実に美しく、そして完璧な四重連動。
並の魔族であれば、魔法の発動すら許されずに一瞬で塵へと変えられている圧倒的な暴力の渦。
だが――俺の目から見れば、完璧であればあるほど、その「動きの噛み合っている隙」が目立って見えた。
「――『局所遅延(ディレイ)』」
コンマ01秒。
俺は自分の足元と、エレナが踏み込んできた着地点の空間だけを極小に遅延させた。
「え……っ!?」
完璧な速度で回り込んだはずのエレナの足首が、ほんのわずかなタイムラグによって自分の意図した踏み込みからズレる。そのコンマ数秒の体勢の崩れを見逃さず、俺はすれ違いざまに彼女の甲冑の薄い隙間へ、ワイヤー付きの極小ナックルを叩き込んだ。
バチンッ!
「きゃあッ!?」
衝撃で弾き飛ばされたエレナが、上空から降下してきたシャーロットの爆破ラインへと重なる。
n a ♡︎︎ *
124
蒼月
766
グリルタ
72
「ちょっとエレナ!? 邪魔……うわあッ!?」
連鎖的な交錯。互いの魔法が大きすぎるがゆえに、たったひとつの「ズレ」が全体の連携を内部から自滅させていく。
「な……ッ!? いま、何をしたの……!?」
氷剣を構えたまま目を見張るセリスに向けて、俺は消音拳銃の銃口を無造作に向けた。
パンッ、パンッ!
「っ……!」
セリスが咄嗟に展開した氷の障壁。だが、俺が狙ったのはセリス本人ではない。彼女の足元の岩盤だ。
弾丸に仕込まれていた小型の成形爆薬(C4)が破砕音を立てて爆ぜ、せっかく構築した氷の足場を派手に崩落させる。
「くっ……足場が……!?」
体勢を崩したセリスの耳元へ、俺は風のシエルの死角を潜り抜け、音もなく背後へ肉薄した。
冷たい消音器(サイレンサー)の銃口が、セリスのうなじにそっと押し当てられる。
「――終わりだ、セリス」
「あ……」
セリスの全身から血の気が引き、周囲の氷結魔法が儚く霧散した。
息遣いすら届くほどの近距離。冷徹な死の感触。自分の誇る絶対零度の魔法が、何ひとつ機能しないまま完敗したという事実。
「実戦なら、お前は今ので死んだ。……そして、これで『俺の勝ち』だ」
俺はセリスの首元から銃口を離すと、盛大に本日何度目かの欠伸をかました。
「制限時間まであと四十五分あるが……もう十分だろ。ほら、約束の資金調達だ」
俺は樹の根元から持ち上げた袋から、先ほど狩った魔石の『欠片』をいくつか取り出し、呆然と立ち尽くすセリスと、泥に塗れた三人の手元へ無造作に投げ渡した。
「な……これ……ッ」
「本戦に向けた最新の防具代と、予備の触媒代くらいにはなる。……付き合ってくれた礼だ」
「な、なになになのよそれ……ッ! 負けた私達に、そんな同情みたいなマネ……ッ!」
顔を真っ赤にして叫ぶセリスの言葉を、俺はひらひらと手を振って受け流す。
「同情じゃない、投資だ。本戦のリングで、脳筋どもに呆気なく負けられたら目覚めが悪いからな。……じゃあな。俺は今度こそ寝る」
呆気にとられる四人をその場に残し、俺は外套の襟を立てて、月明かりの差す夜道へと気怠げに歩き出した。
(……やれやれ。手間の割に合わない前哨戦だったな)
手首の時計を見つめながら、俺はふっと短く口角を上げた。
本戦のトーナメント戦。魔界の常識を叩き潰す準備は、これで完全に整った。
コメント
1件
おお、今回の戦闘シーン、めっちゃアツかったわ! 局所遅延で完璧な連携を崩す発想、クセになるし頭いいなって思った。セリスたちの個性もバッチリ出てて特にエレナとシャーロットの連携が自滅する流れ、笑ったわ。最後に魔石の欠片渡して「投資だ」って言い放つクロードのツンデレ感…やっぱこの主人公好きだわ。本戦が楽しみすぎる🔥