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鐘の音は、一晩中鳴り続けていた。
ゴォン……
ゴォン……
不吉な音が、鬼の里全体へ響き渡る。
湊は眠れなかった。
子供達は不安そうに湊へしがみつき、そのまま眠ってしまっている。
朧は部屋の隅で黙ったまま座っていた。
いつもなら穏やかな目。
けれど今夜だけは違う。
怒りと殺気が消えていない。
湊は静かに立ち上がる。
そして朧の隣へ腰を下ろした。
「……まだ怒ってる?」
朧は少し黙ったあと、低く呟く。
「当たり前だ」
その声には、抑えきれない苛立ちが滲んでいた。
「また、お前を連れていこうとしてる」
湊は少しだけ目を伏せる。
確かに怖い。
あの試験場へ戻るなんて、考えたくもなかった。
けれど――。
「逃げても、終わらない気がする」
朧の目が細くなる。
湊は静かに続けた。
「多分あいつ、ずっと俺達を見てた」
電話の向こうの声を思い出す。
あまりにも楽しそうだった。
まるで全部知っているみたいに。
「……気持ち悪いよな」
湊が苦笑すると、朧はゆっくり湊の頬へ触れた。
大きな手。
熱い温度。
「行かせない」
低い声だった。
鬼としての本能みたいに、強い独占欲が滲んでいる。
湊は少し困ったように笑う。
「でも俺、多分司会役なんだろ」
「関係ない」
朧の腕が湊を抱き寄せる。
強い力。
離したくないと言うみたいに。
湊はその胸へ額を預け、小さく息を吐いた。
「……朧」
「ん」
「俺、前は怖かった」
静かな声。
「ここに来た時、お前のこと化け物だと思ってた」
朧の身体が僅かに止まる。
湊は苦笑した。
「でも今は違う」
朧の胸へそっと手を添える。
鼓動が伝わる。
温かい。
「今は、お前の方が人間っぽい」
その瞬間。
朧の表情が崩れた。
泣きそうな顔だった。
朧は湊を強く抱き締める。
壊れそうなくらい大事なものを抱えるみたいに。
「……お前はずるい」
「何が」
「そういうこと、平気で言う」
湊は小さく笑った。
すると朧は不意に湊の唇へ触れる。
優しい口づけ。
けれどそこには、強い執着が滲んでいた。
離したくない。
誰にも渡したくない。
そんな感情が全部伝わってくる。
湊は目を閉じ、静かに朧へ身体を預ける。
外ではまだ、鐘が鳴り続けていた。
まるで次の地獄への合図みたいに。