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【夜と16とハロウィンと】
ミイラが居る住宅街へと向かう。
「…ん、来たか」
住宅街の中心らへんを彷徨っていると、ミイラが背後に居た。
「わっ…。なんだ、ミイラか。」
「驚かせたか?」
「ちょっとね。」
「そうか。」
ミイラ…。
確か元は人間で、ここに居たミイラに取り込まれたんだっけ。
…まぁ、それは後で聞こう。今はとりあえず。
「ミイラ」
「何だ?」
「トリック・オア・トリート。」
「…あぁ、それか。これを預かっている。やろう」
ミイラは、赤いポストの上に置いてあったラムネ菓子を手渡してきた。
みかん味、イチゴ味、ぶどう味…あとサイダー味とレモン味があるらしい。
結構豊富だ。
「我は菓子の味なんて忘れたが…雪女のチョイスなら間違いないだろう」
「忘れた?」
「ああ、忘れたよ。…そうだ、昔話でもするか?」
「うん」
「聞くのか。意外だな」
「そう?」
「お前なら『興味が無い』と言って切り捨てるかと思ったぞ」
「そこまでじゃない」
「そうか。なら話すぞ」
「と言っても、ここに来る前まではごく普通の人生を歩んでいた。」
「大体、ここに来たのが20年前…、当時8才だ。」
「その時期はまだ初秋で、ハロウィンまでまだ日数があった。」
「ハロウィンが来て帰れるようになるまで、我はここの妖怪達と話し、遊び、絆を深めた。…深めてしまった、が正しいのかもな。」
「数週間が経ち、もうすぐでハロウィンという頃。我は、1人のミイラに話しかけられた。」
「そのミイラは、複数居る妖怪の中でも特に我と仲が良く、当時の我が1番懐いていた男だった。」
「ミイラは、我を裏路地に連れてゆき、我の頬を包帯まみれの両手で包んだ。」
「そうしたら、だんだんと意識が薄くなってきたのだ。どれだけ瞼を開こうとしても、まるで象のように重かった。」
「気付けば、我は我を包んだミイラの家のベッドで寝ていた。」
「起きた直後の体には妙に違和感があった。まるで、全身に何かが巻かれているような。」
「その家は、我も時々訪れていたから、なんとなく構造を知っていた。」
「記憶を頼りに鏡へと辿り着き、己を見た瞬間、全てを悟った。」
「『ああ、俺はミイラになってしまったんだ』───とな。」
ミイラが、数秒目を瞑り、少しゆっくりと瞼を開ける。
「こんなものだ。」
「へえ……。」
そういう経緯でミイラに…、と、なぜかすんなり納得した。
「最初こそ、髪も目も覆われていたものだが…20年も経つと剥がれ、剥き出しにはなっていないがボロボロになってきた。」
「それが、今のミイラ?」
「そうだ。」
確かに、ミイラは髪が少し出ているし、片目が見える。
それ以外にも、年季を悟らせる跡があった。
「まぁ、その他は特筆することもない人生だ。」
ひと呼吸起き、ミイラがこちらへ向き直る。
「他に何か話したいことはあるか?」
「…ううん、大丈夫」
「そうか。なら次はベルゼバブ、町長館の門前周辺。今までと比べると少し遠い場所だ、地図をやろう。」
「ありがとう」
貰った地図を頼りに、ベルゼの居る町長館へと向かった。
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