金曜日、いつも通り如月くんの家に向かった。
インターホンを押す。しかし、何度押しても返事がない。
「いつもならすぐ出てくれるのに…」
不審に思いながら、ふと玄関の扉に目をやると、わずかに開いていた。
「え…」
胸の奥がざわつく。嫌な予感がした。
家の中は静まり返っていて、誰の気配も感じられない。
焦りながら中に入り、如月くんを探す。
「如月くん…?」
返事はない。
足早に家の中を進み、彼の部屋のドアを開ける。
そこで目にしたのは、床に倒れている如月くんの姿だった。
一瞬、息が詰まる。
「如月くん!!」
胸が張り裂けそうなほどの不安と恐怖がこみ上げる。声は震え、喉が詰まるような感覚に襲われながらも、必死に叫んだ。
駆け寄り、彼の肩を揺さぶる。
「大丈夫!?」
しかし、彼の瞼は閉じられたままだった。
息をしているか確かめるために顔を近づけようとした瞬間、彼の瞼が微かに動き、ゆっくりと目が開いた。
「…!帆乃さん?」
彼の声はかすれていて、息を整えようとするかのようにゆっくりと呼吸をした。視線はまだぼんやりとしていたが、次第に焦点が合い、私の顔をしっかりと捉える。
「よ、よかったー…」
安堵のあまり、力が抜けて膝から崩れ落ちた。呼吸が乱れ、視界が滲む。胸の奥に溜まっていた不安と緊張が一気に解け、涙が頬を伝うのを止められなかった。
如月くんはゆっくりと上体を起こし、私を見つめた。顔にはまだ疲れの色が濃く残っているが、意識ははっきりしているようだった。
「え、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも…!インターホン押しても出ないし、玄関空いてたから…すごく心配したんだよ…!」
声が震え、涙が込み上げるのを必死にこらえながら言った。
涙を拭きながら言う。
「ご、ごめんね」
彼は申し訳なさそうに肩をすくめた。
「ここで話すのもなんだし、リビングで話そ?」
「うん」
如月くんに紅茶を入れてもらっている間、湯気が立ち上るのをぼんやりと眺めながら、少しずつ呼吸を整えた。
「はい、紅茶」
「ありがとう」
両手で紅茶が入ったマグカップを持つと、紅茶の香りで気持ちが落ち着いてきた。
「で、なんで倒れていたの?」
「倒れていたんじゃなくて、寝てただけだよ」
如月くんは苦笑いしながら言ったが、その表情にはどこか疲れが滲んでいた。目の下には薄くクマができ、頬も少しこけている。
「そうだったんだ」
ホッと胸を撫で下ろす。
「俺さ、最近不眠で寝れなかったんだ。色々考えすぎちゃって、夜になると頭が冴えちゃうんだよね…。だから、処方された睡眠薬を飲んだらそのまま眠っちゃったみたい」
「考えって、退学のこと?」
「そう」
「答えは決まった?」
「まあ」
そう言って彼は黙り込んでしまった。視線を伏せ、手元のカップをゆっくりとなぞる。肩がわずかに落ち、微かなため息が漏れる。
「やっぱり、退学しないことにするよ」
「え…!本当に?!」
驚きのあまり、思わずカップを持つ手が震えた。心臓が一瞬止まりそうになるほどの衝撃が走る。思わず如月くんの顔をじっと見つめてしまう。
「うん。帆乃さんとこうやって仲良くなれたし、俺もみんなみたいに普通に学校行けるようになりたかったからさ」
そこまで言うとフッと笑みをこぼした。
「如月くんがそう決めたのなら、全力でサポートするし応援するよ!」
「ありがとう」
「一応聞くけど、本当にそれでいいんだよね?」
如月くんは少し間を置き、静かに頷いた。その表情には迷いが消え、どこか決意を感じさせるものがあった。
「うん。先生にも伝えといて」
「分かった!」
それから、2人でアニメを見ながらゆっくりとした時間を過ごした。何気ない会話を交わしながら、ようやく訪れた穏やかなひとときに心が安らいだ。
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