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「お嘆きになる事はありません、わが君、ルキフェル様、このストラスにお任せあれ」
「はっ?」
横合いから掛けられた声に視線を向けたコユキの目に、王冠を戴いた巨大な鳥型悪魔の姿が映った。
「私は大空を統べる魔王、これよりサタナキアを取り込んで更なる力を手にし、きっと貴女達、わが君の願いを叶えて見せま――――」
「騙されてはなりませんぞ、ルキフェル陛下! 信用に足るのは最早私、フルーレティのみでございます! 来いっ! バティム、ピュルサン、エリゴル! ここにいる裏切り者共を食い止めよ! さ、サタナキアは私、フルーレティが安全な場所に逃がして差し上げます、ほぉ、なるほど、この魔力量、旨そうですな、これならばさぞかし大きな力の源泉となる事でしょうな、ジュルル」
「くっ! 『聖魔弾(スリング)』」
「コユキ殿! 駄目でござるよ、色んな実力者が次々とサタナキアを喰いに現れてまるっきりカオスでござる! どうすれば良いやら……」
「むむぅ、はっちゃけーはっちゃけー…… はっ! 善悪合体よ合体、今すぐ合体するのよぉっ! ほら急ぐのよぉっ!」
何やらピンと来たらしいコユキであったが、言われた善悪は訝(いぶか)しげな顔で聞き返す。
「が、合体でござるか? 今? ここで? 何で?」
コユキはイライラしている。
「今よ今、ほらスライムと影と鳥と炎がこっちに向かって来たじゃないのぉ! 『聖魔弾(スリング)』! ほらほら急ぐのよぉ! また増えたわよ、あの豹(ひょう)は魔獣軍団の長(おさ)、オセだわね、くっ『聖魔弾(スリング)』! 急いで善悪ぅ!」
「お、おう、分かったのでござるよ! 少々お待ちあれぇー」
答えた善悪は一瞬の躊躇の後、思い切って作務衣のズボンを下ろして下半身を露出させ、庭に横たわってから恥ずかしそうにはにかんでコユキに言った。
「じゅ、準備オケイでござるよ、さあ、合体するでござるか、おいでコユキ」
「やっとなの? 『聖魔弾(スリング)』、良しっ、今の内よ! って善悪ぅ、あ、アンタなにやってんのよぉ!」
善悪の方を振り返ったコユキは両手で顔を覆って叫ぶのであった。
善悪はキョトンとしながら答える。
「な、何って、合体するんでしょ? さあ、おいで」
「ば、馬っ鹿! あれよあれ、手を繋いだ時の奴よ! そ、そう、肩車よ肩車! 早くその粗末なモノをしまって頂戴! 早く早くぅ!」
「な、何だそう言う事か、おかしいとは思ったのでござるよ、やけに積極的だなって…… ほい、準備オケイでござるよ」
言いながら作務衣を履き直した善悪はその場にしゃがみ込んで首を前に出し、コユキに向けて差し出すのであった。
「良しっ! 合体よ、とりゃっ!」
ズシンッ!
「ぐっ! む、ムッシュムラムラー! はっ!」
頚椎(けいつい)に致命的な衝撃を感じつつも、持ち前のガッツで立ち上がった瞬間、コユキと善悪は周囲に集まった悪魔達に向けて話し出したが、その声は例の如くピタリとシンクロしていたのである。
「「静まれ静まれい! この体たらくは何だ貴様等! ミーが留守にしていた僅(わず)か一万年ばかりの間に我欲、我執(がしゅう)に囚われるとは情っけないぃ! それも幹部が揃ってとは、ワイ君の見る目が無かったと言う事か? 中には俺氏の後裔(こうえい)を貶(おとし)めるような発言もあったなぁ? どうするんだお前等? オイドンとやりあう覚悟があるんだよなぁ? ああっ!?」」
言葉だけで無く周囲を圧する濃密な魔力の質も量も、この場に集まった全悪魔が思わず息を呑むほどの驚嘆すべきものであった。
アスタロトやバアル、フンババとて例外ではなく、慣れ親しんだコユキと善悪の姿を見つめながらも、大粒の汗を流している。
勿論、先程までコユキに対して喰う喰う言っていた有力悪魔達はその比ではない。
一様に黙りこくり全身をガタガタと震わせ続けていたのである。