コユキがデザート(砂糖水)を堪能(たんのう)していると、ヤケにゆっくりシャトーブリアンとやらを堪能(たんのう)していた善悪が不意に食卓から立ち上がって言った。
「ちょっと席を外すでござるが、直ぐ(すぐ)に帰って来るのでござる」
そう言いながらダイニングを後にする善悪の手には、半分ほど残ったお肉が乗ったステーキ皿があった。
コユキは砂糖掛け氷に夢中でガリガリやりながら、嬉しそうに待っていたのだが……
善悪が出て行ってすぐ、少し離れた位置から嬉しそうな犬の鳴き声が聞こえてきた。
ほどなく戻って来た善悪に最後の氷を齧り終えたコユキは堪らずに問い掛ける。
「あの、先生? えっと、どちらに行かれたのですか、ね?」
笑顔で善悪が答えた。
「うん、お肉が余ってしまったのでお隣のペスにお裾分けをしたのでござるよ。 一昨日は(コユキが)迷惑を掛けてしまったのでお詫びも兼ねてでござる。 ペス、喜んでくれていたでござるよ、コユキ殿も嬉しいでござろ? ん? んん?」
善悪はマジるんるん御機嫌(ごきげん)丸で言う。
「は、はい…… ソウデスネ……」
対するコユキは体型通りシオシオ○パー状態であった。(昭和)
結局その日は青菜に塩状態のコユキを送り届けて解散となった。
自宅に帰りついたコユキは食べられる物を漁りまくったが思ったような成果は得られなかった。
それはそうだ、コユキ以外の家族は引き篭もってはいなかったのだ。
平日でも五人、休日ともなれば大体九人、旦那達まで居る時は十一人が集まっていた、田舎の大家族である。
ばあちゃん、おかあさん、おばさん、二人の妹、(以上!)まともな女性陣が女子力の限りを尽くして、その日のその日の食卓を彩り続けていたのだから。
こういった食卓に着く人数が、極端に増減する家では買い置きと言う感覚は基本的に存在しない。
何しろ、最寄のスーパーマーケットを『冷蔵庫』又は『食料庫』と呼んで憚(はばか)らないくらいなのだから。
お菓子は買い足し前だったのかどこにも見当たらないし、どこを探してもインスタントの類は見当たらない。
有った物と言えば大量の素麺であったが、汁の素的な物は見当たらず、コユキに本日未明の地獄を思い起こさせた。
買い置きは最小限、あるのは生米、それも精米前の玄米である。
自宅の脇屋には精米機はあった筈(はず)だが、コユキは動かし方を知らなかったので意味はなかった。
あと、食べられる物と言えば敷地内にある畑の野菜であったが、父ヒロフミがいつ凶悪な農薬や除草剤、殺虫剤を撒いたか分からない限りこれは暫く(しばらく)除外するしか無いであろう。
なんにしろコユキにはお金が無いのである。
家族も妹達も、度重なるコユキの『ちょっと拝借~♪』に業を煮やし、最近では現金もカードもコユキの手の届く範囲には持ち込まないのが家族のルールになっていたのだ。
買い物なんかは、専ら(もっぱら)スマホの電子決済が主流となって久しい。
そこで、コユキの完全に腐って、グズグズ崩れ出している脳細胞に閃(ひらめ)きが瞬いた。
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