哲汰side
気づけばあれから数ヶ月が経っていた。
季節は巡り、
俺は高校の卒業式を迎えていた。
体育館に響く拍手の音の中、
卒業証書の授与が進んでいく。
ふと耳に届いたのは、あの名前。
「草川直弥」
壇上の先生が、
当たり前のように直弥の名前を呼んだ。
その瞬間、
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
ここにいないはずの直弥が、
ほんの一瞬そこに立っているように思えた。
卒業式が終わっても、
俺の心は落ち着かなかった。
その足で、直弥の家に向かった。
玄関先で出迎えてくれたのは、
兄の拓弥くんだった。
彼は少しだけ笑って、
けれど目は赤くなっていた。
仏壇の前で手を合わせる。
哲「直弥、卒業おめでとう」
卒業式で貰った花束。
直弥の分も用意されていた
花束と卒業証書を 仏壇の前に置く。
拓「これ……なおから哲汰に。
卒業したら渡してって、そう言われてたから」
帰ろうとしたら拓弥くんから
差し出された封筒。
俺は両手で受け取った。
白い封筒には、見慣れた直弥の字で
「哲汰へ」と書かれている。
胸の奥が熱くなって、手が震えた。
家に帰るまでの道のりが、
やけに長く感じた。
部屋に入り、机の上に封筒を置く。
しばらく見つめてから、そっと開けた。
中には、几帳面な直弥の文字で
綴られた便箋が入っていた。
その文字を目で追うたび、
喉の奥が詰まって、息が苦しくなる。
『この手紙を読んでるってことは、
俺はもういないんだね。
一緒に卒業できなくて、ごめん。
でも、俺、哲汰と過ごした時間、
全部が宝物だった。
花火やったこと、紅葉を見たこと、
ケーキのクリームをつけ合ったこと、
ぜんぶ忘れないでいてくれたら嬉しい。
俺のこと、たまには思い出してね。
哲汰の未来に、たくさんの幸せがありますように』
読み進めるうちに、
文字がどんどん滲んでいく。
目からこぼれる涙が止まらない。
哲「直弥……直弥……」
声を出しても、届く相手はもういない。
それでも、
名前を呼ばずにはいられなかった。
俺は便箋を胸に抱きしめた。
部屋の静けさの中、涙の音だけが響いた。
また今日も、直弥を想って泣いた。
でも、その涙の奥で、
たしかにあの手のぬくもりを感じていた。
コメント
6件
映画を観てるくらいに最高です😿💓 美しすぎる物語です߹𖥦߹👍🏻💘


感動すぎますт т 続きがもしあるなら楽しみに待ってます🍀*゜