テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
み う . @自給自足
29,384
514
「遅い」
ドアが開いた瞬間、心音の声が飛んできた。
「え?」
入ってきたラピスが、きょとんとした顔をする。
「何が?」
「何がって、お前だよ」
「俺?」
「そう」
心音は腕を組んだ。
「もうみんな来てるぞ」
「……あれ?」
ラピスは部屋の中を見渡した。
心音。
メルト。
みかさ。
らいと。
ロゼ。
そして、自分。
「ほんとだ」
「何その反応」
メルトが笑う。
「寝坊した?」
「してない」
「じゃあ何?」
「……ちょっと考え事してた」
「朝から?」
「うん」
ラピスは適当に笑った。
それ以上、何も言わなかった。
昨日から続いている夢のことなんて。
言えるはずがなかった。
「まあいいや。ほら、これ」
メルトが飲み物を差し出す。
「俺の?」
「そう」
「ありがとう」
受け取った瞬間、ラピスの手が止まった。
冷たいペットボトル。
見慣れたラベル。
何度も見ているはずのもの。
なのに。
なぜか、胸の奥がざわついた。
「……どうした?」
メルトが聞く。
「いや」
ラピスは首を振った。
「なんでもない」
「そう?」
「うん」
笑う。
いつも通りに。
何も変わらないように。
「そろそろ行こうぜ」
らいとが言った。
「五人で行くんだろ?」
その言葉に、一瞬だけ空気が止まった。
「……五人?」
ラピスが聞き返す。
「ん?」
らいとが首を傾げる。
「いや、五人って……」
ラピスは周りを見る。
自分を入れれば六人。
だから、当然おかしい。
「……ああ」
らいとが数え直す。
「六人だった」
「だろ?」
ラピスは笑った。
「寝ぼけてんじゃね?」
「かも」
らいとは笑って誤魔化した。
誰も気にしなかった。
ほんの数秒前まで、確かにそこにあった違和感も。
すぐに日常の中へ消えていった。
「行こうぜ」
「うん」
六人が歩き出す。
廊下を並んで歩く。
くだらない話をして。
笑って。
いつも通りに。
その途中。
ラピスは少しだけ後ろを歩いた。
前には五人。
その背中を見ながら、なぜか胸が苦しくなる。
夢の中でも。
この光景を見た。
同じように五人が前を歩いていて。
自分だけが少し後ろにいる。
ただ、それだけの夢だった。
それなのに。
「……」
ラピスは立ち止まった。
「ラピス?」
メルトが振り返る。
「どうした?」
「……いや」
「早く来いよ」
「うん」
ラピスは走って追いついた。
「ごめん」
「何が?」
「なんでもない」
メルトは少しだけ不思議そうな顔をした。
けれど、それ以上は聞かなかった。
その優しさが。
今のラピスには、少しだけ苦しかった。
――夜。
みんなが寝静まった頃。
ラピスは一人で目を覚ました。
「……っ」
心臓が速い。
息が苦しい。
額には汗が浮かんでいた。
また夢を見た。
昨日と同じ。
いや。
昨日よりも、はっきりしていた。
夢の中で、メルトが一人で座っていた。
暗い部屋。
机の上には、何かが置かれている。
メルトはそれを見つめていた。
そして、
「俺、もう無理かもしれない」
そう言った。
ラピスは夢の中で叫んだ。
やめろ。
そんなこと言うな。
まだ終わってない。
俺たちがいる。
そう伝えようとした。
けれど。
声が出なかった。
メルトはこちらを見ない。
ただ、俯いていた。
「頑張っても意味ないじゃん」
その言葉に、ラピスの胸が締め付けられる。
「だったら……」
メルトが呟く。
「夢なんて、諦めたほうがいいのかな」
「……やめろ」
ラピスは現実でも呟いた。
「やめろよ……」
夢の中の景色が歪んでいく。
メルトの姿が遠くなる。
手を伸ばしても届かない。
「メルト!」
叫んだ瞬間。
目が覚めた。
「……はぁ……」
ラピスは布団の中で息を整える。
夢だった。
そう言い聞かせようとした。
でも。
もう、ただの夢とは思えなかった。
ラピスはスマホを手に取った。
時間を確認する。
午前二時。
画面を消そうとして――
ふと、アルバムを開いた。
そこには、みんなとの写真がたくさんあった。
笑っている写真。
ふざけている写真。
何でもない日の写真。
スクロールする。
一枚。
また一枚。
そして。
ある写真のところで指が止まった。
「……あれ?」
六人で撮ったはずの写真。
なのに。
ラピスは、そこに写っている人数を数えた。
一。
二。
三。
四。
五。
「……五人?」
思わず呟く。
けれど、よく見ると。
ちゃんと六人いる。
自分もいる。
「……疲れてんのかな」
ラピスはスマホを伏せた。
それでも、眠れなかった。
朝になれば。
またいつものように笑える。
そう思っていた。
けれど。
その日の朝。
メルトが何気なく言った。
「そういえばさ」
「ん?」
ラピスが振り返る。
「昨日、夢見たんだよね」
その言葉に、ラピスの手が止まった。
「……夢?」
「うん」
メルトは笑った。
「なんか変な夢だった」
「どんな?」
「それが、よく覚えてないんだけど」
メルトは少し考えてから言った。
「誰かが、ずっと俺のこと呼んでた気がする」
ラピスの心臓が、大きく跳ねた。
「……誰?」
「分かんない」
メルトは首を傾げた。
「でも、なんか……聞いたことある声だった」
ラピスは何も言えなかった。
ただ。
メルトの隣で笑うことしかできなかった。
この時のラピスは、まだ知らなかった。
夢を見ているのは、自分だけではないことを。
そして。
その夢の中で失われようとしているものが、
自分自身だということを。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━◆
100︎♡ありがとうございます~!
こんなに♡貰えると思ってなかったからめちゃ嬉しいです~!!
今回はちょっと高めに..
NEXT…♡50
コメント
1件