「……ん? 怒ってないぞ。おれ自身の問題だからな」
「ウニャ。アックが元気ない、シーニャ悲しいのだ」
やられるつもりもなかったが、相手をいい気にさせすぎた。故郷の問題はこれからおれが取り戻せばいいだけのことだし、気にせず行くしかない。
「ありがとうな、シーニャ。元気出たぞ」
「ウニャッ!」
「さてと……」
「イデアベルクに向かうつもりか? イスティ」
「当然だ。お前が止める権利は既に失せているはずだが?」
この期に及んでまだ文句を言ってくるとは、変わって無いな。
「我らが悪かったとはいえ、ドワーフの娘に全て破壊された武器や防具。それらをお前のガチャスキルで調達してくれないか? さすがに武器が無ければ街を守れん」
調子のいいことをぬけぬけと言うところも変わらずだ。
「お前がおれのガチャに期待するのか? ガキの頃に散々バカにしたはずだが?」
「すまない。だが頼む! この通りだ!!」
ガチャスキルは、幼きおれが公国に住んでいた頃から使うことが出来た。その頃は貴族の遊びのようなもので、からかいの種にもなっていた。からかっていた男の一人が、今こうして頭を下げているのは何とも言えない気分だ。
この場にいる騎士の誰もが頭を下げているが、どうするべきか。首を何度も傾げていると、その様子を見かねたのかミルシェが声をかけてきた。
「アックさま、よろしいのでは?」
「しかし……」
「あなたさまのガチャスキルはルティを呼び出してから覚醒したのでしょう? 少なくとも子供の頃にしていた時とは比べ物にならないものが出るかと思いますわ」
「……それはそうだが」
「それに……あの娘《こ》もそうして欲しいと訴えていますわ」
ミルシェが気にしていた所に目をやると、少し離れた所でルティが祈るように立っていた。小屋もろとも武器を破壊してしまったことに、申し訳なく思ってしまったとみえる。
「……分かった。武器と防具を出せるように望んでやる。その代わり――」
「あぁ、多くは望まん!」
「それならまずは宿に移動だ。他の騎士は巡回でもさせておいてくれ」
「承知した」
ルーヴの指示に従い、他の騎士たちは街の巡回を始めた。ガチャスキルを知る者以外には、なるべく知られない方がいいと思ったからだ。
◇◇
おれたちは騎士団長ルーヴを連れ、宿に戻った。部屋が狭いことから、部屋の中にはおれとルーヴ、ミルシェとシーニャだけになった。
ルティは自分の休む部屋で、温かいものを作るとかで外れている。
「ところで、フィーサはどこへ行った?」
「ウフフッ、あの小娘でしたら、恥ずかしがって当分出て来られないんじゃないかしら?」
「何でだ?」
「理由については、あたしが後でお見せして差し上げますわ」
「……? あ、あぁ」
フィーサに対し、何かをしたことでも見せてくれるのだろうか?
シーニャの反応を見る限りでは何かがあったわけでは無さそうだが。
「ふ、仲がいいのだな」
「何か文句でもあるのか?」
「いや、イスティを慕う者がいて何よりだ」
「それはどうも」
魔石を取り出すのも久々すぎるが、懐に入れていた魔石を数枚取り出す。専用魔石は袋に入れたままで、今回使うのは無印魔石のみとなる。部屋のベッドの上に放り投げたところで、ガチャが発動した。
【レア メルクリウスソード 防2 水属性 Lv.40】
【レア 騎士の大剣 防1 Lv.35】×8セット
【レア ナイトシールド Lv.35】×9セット
【レア 公国式騎士鎧 防40 Lv.65】×9セット
「おぉっっ!! す、すごいぞこれは! アック・イスティ、我が弟よ!! これらがあれば何も心配は要らなくなる! 感謝する!!」
最低でもレアが確定する以上、ここの騎士にとってはいいものが出たのだろう。
「一刻も早くこれらを渡してくるとしよう! 今夜はゆっくり休んで、明日にでも備えてくれ!!」
「……そうする」
「ではな!!」
どうやらルーヴの予想よりもいいものが出たらしい。あのルーヴがおれに何度も頭を下げて、嬉しそうに部屋を出て行ってしまったのが信じられないくらいに。
「しかし、あんな程度で喜ぶものなのか?」
「フフッ、アックさまにとってはそうかもしれませんけれど、あの騎士たちの強さにとっては良すぎですわ」
「確かにレアではあったけど、魔石がまた拗ねてしまったかと思ったんだが……」
「ウニャ? 魔石が怒ったのだ?」
「いいえ、そうではありませんわ。アックさまのご意思を魔石が感じ取ったに過ぎませんことですわ」
装備一式を出しただけであんなにも態度が変わるとは。しかしこれで故郷に行くのに何の支障も無くなった。
「よし、ルーヴの言う通り今夜は休もう」
「シーニャ、お腹が減ったのだ~」
「それならもうすぐルティが……」
ルティがいる部屋を見ようとすると、
「い、嫌ですわ(なのだ)!!」
――といった感じで、二人同時に拒まれてしまった。
「へ?」
ルティの料理にトラウマでも出来たのか?
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