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更に後ろの車両へと逃げようとするポニーテイルの少女が、何気なくこちらに振り向いた。その血色の良い顔にアリスは心底ホッとした。
周りの乗客もこちらでモートがリッチーの連れたゾンビの群れと戦っているのを見ると、どうやら安心感がでたのだろう恐怖が薄らいできたようだ。
だが、リッチーはこのどさくさに紛れて前の車両へと逃げ出してしまった。モートの幾度も振る銀の大鎌でゾンビの群れはバラバラの肉片へと分解されていく。
「これは、やっかいですねえ。リッチーは元は自らの儀式によってアンデッドとなった高位魔術師なんですよ。なので、高い社会的地位もありますし、知能もかなり高いんです。断言します。リッチーはアンデッドのリーダー的存在ですね。このまま逃げおおせてしまうでしょう」
アリスの隣で、話しながらオーゼムは屈んで少女と向き合った。
「あ、それはそうとそちらのお嬢さん。私はオーゼム・バーマインタムという名前です。あなたは何て名前なのでしょう?」
オーゼムが少女に丁寧にお辞儀をした。ポニーテイルの少女は未だに震えていたが、アリスには、その震えがモートの戦いや周りの徐々に悲惨になっていくゾンビたちの汚れた血液による壁や床によるものではなく。初めて家の外へ出てきて、広大な世界を興味津々に見回しているといった時に、突然の不幸に見舞われたかのような未知に対する恐怖なのだろうと思えた。いや、そう、感じたのだ。
「わ、私の名はテアテラ……」
「あなたを守りに来たんですよ」
やっとのことで、言葉を発した少女の唇はこれ以上ないほど震えていたので、オーゼムは優しい言葉で告げた。
モートの狩りによって、激しい血の雨と溢れかえるゾンビの肉片によって床も壁も真っ黒に汚れていた。