『一人ぼっちの冒険物語は嫌なので、パーティー仲間を探すことにした』
商店街のような場所が見えた。
石造りの立派な門が聳《そび》えており、脇には門番の姿が見当たらない。戸惑いつつも門をくぐった。
閑散《かんさん》としていて、人の姿がどこにも見当たらない。土が剥き出しの地面には砂埃が舞っている。まるで西部劇の世界に入ったようだった。
しかし、その世界観に一つだけ浮いていた。
「自販機……?」
初めて見るラインナップが売られている。
透明なジャムのビンのような容器が三列ずらりと並ばされていて、得体の知れない液体が、赤色や黄色や紫色と様々だった。
値段を見ると[100]と表示されている。
「以外と安いな」
勇者は自分が無一文のことに初めて気づく。
バーの看板を掲げたお店がいくつかあり、人の気配はあった。
勇者は一つだけ人の気配がするバーまで足を止めると、人の笑い声や食器同士のぶつかる音がはっきりした。
勇者は真っ直ぐ見据え、自由扉に手を伸ばした。寸前、手を引っ込めた。そして、そのまま踵《きびす》を返した。
ウェスタンといえば、早撃ち。いわばファストドロウ。(入って撃たれたらどうしよ! 撃たれたらもうどうしようもないか。)
勇者は常に冷静である。それは陰キャだから決してない。ないのだ。ただこの世界に転生したばかりで、友達がいなくて当然なのだ。そうだ。
前世では友達がいて、コミュ力はある方だ。言葉を自由自在に操り、周りの人間を操り人形と化した。妄想の中では。
実践すると上手くいかない。たがら、直前まで自信満々なのに、急に不安になる。
(扉の向こうには怖い面をした渋いダンディーが待ち構えているに違いない)。(そもそも部外者が入っていいところなのか?)。
仲間を探しに来たのに、そもそもの勇者が陰キャのせいでステイになった。勇者はぼっちなのだ。
そんな勇者に転機が訪れる。
女の子の声がした。
「いらしゃっせぇ〜! 一名様ですか?」
勇者は気づいたときには問われていた。
そこには、白色に近い淡い水色の髪をした女の子が立っていた。涼しそうな白のワンピースの上にフリルの付いた腰エプロンを身につけている。
メイドみたいな店員が出てきた。
勇者は植え付けられた疑問をぶつける。
「ここはバーで合ってますよね?」
「そですよ〜」
あっさりとそう返されたので、勇者は変なことを言ったと錯覚しそうになった。
気まずい沈黙が漂い、店員さんの物珍しいものを見るような視線が刺さった。
勇者は何か言葉を発しようとするが、吃《ども》る。
「ご主人様は疲れてるみたいですね」
勇者は緊張しているだけである。
バーテンダー? メイドさん?は腰エプロンに付けた名札を持ち上げると
「わたくし、”ペガサス”といいます! ご主人様をご奉仕いたしますよ! ぜひぜひ!」
勇者は面食らった。手を引っ張られ、店内に案内された。
店内は物静かだった。出入り口入ったすぐにカウンターがあり、2人席の円卓は置物のように点在している。
勇者とペガサス以外に人の姿が見当たらなかった。
「さっきまで人の話し声がしたんですけど……」
「あー、皆さんは裏口へとお帰りになりましたよ」
勇者は腑に落ちなかった。が、颯爽と着席させられ、ペガサスはカウンターの裏に行ってしまった。メニューを手に戻ってくると、勇者に手渡した。
「本日のおすすめは、大人気の“ドンペリ”です!」
メニューを見ると、手書きでドンペリと描かれていて、周りにはお花や”ミニ”ペガサスのイラストで装飾されていた。
裏を見ると白紙。つまりメニューはドンペリしか載っていない。
(おすすめも何も、注文できる商品がドンペリしかないじゃん!)。
「当店ではドンペリ一本でやっています!」
「ですので、それほど自信のある品になっています!」
そもそもドンペリが何なのか分からない勇者はパッとしない表情を浮かべていた。
メニューに目を通し、値段を見ると[1000]と表示されている。
「1000円か。そんなもんですか」
「はい! 1000“イェン”しますがいかがなさいますか?」
「じゃあ、お願いします!」
勇者は何も持ち合わせていないが、“勇者”という職業なので後から稼げばいいと、思考の上そう決断した。
ーーーそれが不幸を招くことも知らずに……つづく。
コメント
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うおお!!今回もめっちゃ面白い!!