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リモコンが当たった事に驚いたのと痛みから持っていた食器を床に落として割ってしまい、落とす際にガシャンッと大きな音を立ててしまった事に貴哉は更に立腹。
立ち上がると、その場に座り込んだ私の背中を思いきり蹴りつけてくる。
「や、止めて!」
蹲り、止めてと懇願するも、貴哉は止めてくれない。
それどころか、
「テメェ、何か企んでんじゃねーだろうな? あぁ?」
やっぱり急な大掃除に何か勘づいたのか蹴るのを止めた貴哉は私の髪を掴み上げて無理矢理顔を上げさせてきた。
「痛っ、お願い、止めて……」
脚や背中も痛いけど、引っ張り上げられている髪が痛くてもう一度止めてと懇願すると、
「お前は俺の言う事聞いて素直に従ってりゃいいんだよ!!」
「きゃあ!?」
掴まれていた髪を力任せに離された私はその弾みでキッチンカウンターの壁に頭や身体を打ちつけてしまう。
その時、エプロンのポケットから先程しまっておいたホテルの領収証と、杉野さんから貰ったお守りが床に落ちる。
「何だ、この紙」
お守りの方は見ればすぐに分かるので興味を示さず、領収証の方に手を伸ばした貴哉。
「お前、これ何だよ? ホテルの領収証? まさか、他に男居るんじゃねぇだろうなぁ!?」
「違っ、それは――」
失敗したと思った。すぐに部屋の引き出しにしまえば良かったと後悔した時には既に遅くて、貴哉のスーツのポケットから出て来た事を言えなかった私は完全に疑われてしまったのだ。
「何が違うんだよ!? これは何なんだよ!!」
「止めて、痛いっ!」
倒れていた私に馬乗りになった貴哉は領収証を手にしたままで私を問い詰める。
貴哉は完全に疑っているのだ。私が誰かとホテルに行った証拠なのだと。
これは貴方のスーツのポケットから出て来たもの――そう言えば済む事かもしれないけど、それじゃあ不倫に気付いている事がバレてしまう。
だけど、このままじゃ殺される。
そう思った私は何とか貴哉を押し退けると、床に落ちていたお守りを拾い上げて玄関へと走って行く。
「待てよ、こらっ!!」
ドアノブに手を掛けようとした刹那、あと少しのところで貴哉に追いつかれた私は靴の上に倒され、棚に置いてあった花瓶を貴哉が手にした瞬間、もう駄目だ、終わったと思い、藁にもすがる思いで手にしていたお守りに向かって「助けて!!」と叫んでみると、
殴られる寸前、ピンポンとインターホンが鳴り響いた。
この騒ぎで隣近所の人が通報したか、様子を見に来たのかもしれない、そう感じた貴哉は私を見えない場所へ押しやると、確認もせずに玄関のドアを開けた。
「何すか?」
「こちら、小西 璃々子さんのお宅で間違いありませんよね?」
「……そうですけど?」
「今しがた、女性の悲鳴のような声が聞こえてきましたけど、もしかして彼女に何かありました?」
「あ? んなもんしてねぇし、何もねぇよ。それよりも、何なんだよお前は」
「ああ、申し遅れましたが私、こういう者です」
「……は? 弁護士……?」
来訪者を前にした貴哉は焦りの色を浮かべていた。
ドアの陰に隠れる形で蹲っていた私には来訪者の姿は見えなかったけれど、声ですぐに分かった。
現れたのは他でも無い杉野さんで、探偵という事を隠す為か、弁護士と名乗って貴哉を黙らせていた。