コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「何で、弁護士なんかが? 何かの間違いじゃねぇの? アイツにそんなモンが必要とは思えねぇけど?」
思い当たる節があるからなのか、貴哉はかなり焦っている様子だった。
だけど、私はまだ不倫の事をバラしたくは無くて、何とかして杉野さんにその事を伝えようと思ったのだけど、
「そうですか? 彼女は悩んでいましたよ? 貴方が暴力を振るってくる事を」
「はあ? んなモン、してねぇし」
「先程も、していましたよね? 凄い音と悲鳴のような声が聞こえて来ましたし」
「だから、そんな訳ねぇって! 他の部屋と勘違いしてんじゃねぇの!?」
杉野さんは私が「不倫」の相談をしたのではなく、「暴力を振るわれている件」を相談してきたという設定で貴哉の前に現れたらしい。
(杉野さん、あの痣がぶつけたものじゃないって、気付いてたの?)
けれど、あくまでも白を切るつもりの貴哉は知らない、そんな事はしてないと言い続けたものの、
「そんな筈はありませんけどね? ほら、ここに全ての証拠が残ってますよ? この声、貴方と璃々子さんのものですよね?」
杉野さんはある機械を取り出すと、証拠となる音声を一部流していく。
その音声は先程私が貴哉に蹴られているところや、怒鳴り散らされているところで、何故だが分からないけれど、暴力を振るわれた一部始終が録音されていたのだ。
「お前、何なんだよ!? これって盗聴じゃねぇの? まさか、忍び込んで盗聴器しかけて、盗聴してたのかよ!? 不法侵入で警察呼ぶぞ!?」
「……まあ、盗聴はしましたけど、部屋に忍び込んだりはしていませんし、これはあくまでも、璃々子さんを守る為にした事です。話を聞いた状況から命の危険があると判断しましたから。警察、呼んでも構いませんよ? 寧ろ、呼ばれて困るのは貴方の方では?」
「……っくそ」
「璃々子さんはどこです? ひとまず彼女はこちらで保護します。拒むようでしたら、こちらにも考えがありますよ? 職業柄、多方面にコネもありますから不利になるのはそちらかと」
怒りを露わにする貴哉とは対照的に終始落ち着き払っている杉野さん。
あまりの堂々振りに彼が弁護士で、色々と不利な状況になっているとすっかり信じ込んでいるのか、こちらに視線を向けた貴哉は、
「おい、さっさと行けよ!」
そう言葉を投げ掛けると玄関から離れていく。
「小西さん、大丈夫ですか?」
「……はい、すみません、ありがとうございます」
「ここで待っていますから、すぐに荷物を纏めて下さい」
「分かり、ました」
リビングに戻った貴哉はソファーに座ると、こちらには一切興味を示さない。
私は寝室から旅行鞄を取り出すと、服や下着など、必要最低限の物を詰めていく。
そして、
「……私はもう、貴哉とは、やっていけない……」
そう声を掛けてリビングから出ようとした私に貴哉は、
「弁護士とか、卑怯な手使ってんなよ。こんな事して、ただで済むと思うなよ。つーか、俺は絶対、離婚だけはしねぇからな」
こちらを向く事なく、あくまでも自分は悪くない、私を卑怯だと罵った後で、離婚だけはしないと宣言してきたのだった。