テラーノベル
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玄界への門が永久に閉じられ、遠征艇が星の彼方へと去ってから、どれほどの時間が流れただろうか。
近界の広大な夜。その星の王宮の最上階にあるバルコニーから、犬飼澄晴は一人、紫色の雲の隙間にまたたく無数の星々を見上げていた。彼の纏う漆黒のネイバーの戦闘衣は、すでに彼の身体に馴染みきっている。手元で弄んでいるのは、あの夜、二宮の黄金のアステロイドをあざ笑うように曲がってみせた、紫色のトリオン光を放つ新しい銃だ。
「……ふふ、あはは」
犬飼の口から、ふっと短い笑いが漏れた。ここには、二宮の完璧なチェス盤は存在しない。次にどんな敵が、どんな未知の技術を持って襲ってくるか、誰にも予測がつかない。一秒先さえも混沌に満ちている。そして何より、この星のトリガーには、あの”緊急脱出”という生ぬるい安全装置などついていなかった。戦闘体が壊れれば、生身が晒され、文字通りその場で命を失う。死と隣り合わせの、圧倒的な自由。
「ねぇ、鳩原ちゃん」
犬飼は誰もいない暗闇に向かって、いつも通りに、けれどこれまでで最も心からの笑みを浮かべて呟いた。
「おれ、やっと分かったよ。鳩原ちゃんが、自分の全部を投げ打ってでもここに来たかった理由。……ここはさ、本当に『退屈』だけは存在しない世界だね」
毎日が綱渡りで、毎日が手探り。何でも器用にこなせてしまった地球での日々が、どれほど色褪せた、無機質なゲームだったかを、この世界は教えてくれる。
ガサリ、と背後の暗闇から、鋭い殺気とともに未知の刺客の影が飛び出してきた。この星の権力闘争に巻き込まれた、王属ネイバーの暗殺兵だ。彼らは一切の警告なく、犬飼の首を刈るために不気味なブレードを振り下ろす。普通なら、恐怖に凍りつく瞬間だ。緊急脱出のないこの世界では、その一撃がそのまま人生の終わりを意味するのだから。だが、犬飼の瞳は、これまでにないほど瑞々しい輝きを放っていた。
「あは、早速お出迎え? 気が早いねぇ」
犬飼は振り返りざま、新しく手に入れた黒い銃を躊躇なく構えた。引き金を引くと、彼のトリオンに呼応した紫色の弾丸が、空間の歪みをグニャリとのたうち回りながら、刺客の予測を完璧に裏切る軌道でその胸を貫いた。光の粒子となって消える安全な演出などない。刺客はそのまま、物言わぬ肉塊となって床に転がった。
「うわ、本当に死んじゃった。……すごいな、これ」
犬飼は転がった死体を一瞬だけ冷ややかに見つめ、すぐにまた、退屈そうに星空へと視線を戻した。自分の命がいつ、誰に、どんな風に奪われるか分からない。その絶対的な恐怖こそが、今の犬飼の空っぽだった心を辛うじて満たしている唯一の「刺激」だった。
二宮さんも、辻󠄀ちゃんも、今頃あの狭い作戦室で、おれの文句でも言ってるのかな
ふと頭をよぎったかつての仲間たちの顔。だが、その記憶に未練も、懐かしさも、罪悪感すらも湧いてこない。彼にとって玄界での日々は、すでにクリアして引き出しの奥に仕舞い込んだ、古いゲームソフトと同じだった。二度と電源を入れることはないし、そのセーブデータがどうなろうと、知ったことではない。
「じゃあね、おれの完璧な隊長さん」
犬飼は前髪を軽くかき上げ、いつも通りの、誰にも本心を掴ませない無色の微笑みを浮かべた。遺された二人がどれほど涙を流し、どれほど彼のエゴに狂わされようとも、犬飼澄晴は二度と振り返らない。彼はただ、自分が焦がれた”予測不可能な地獄”の中で、明日の命さえ分からない自由を、一人きりで楽しそうに貪り続けるのだった。
光街 葵
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#染井華
さんま
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すぷりんぐ
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#迅悠一
コメント
1件
おお、犬飼…完全にこっち側の住人になっちゃったね。 「退屈な玄界」に戻る選択肢はもうないんだな、って感じさせるラストの軽さと狂気のバランスがすごく刺さった。 二宮と辻󠄀の顔がチラッと浮かんだのに、すぐに「知ったことじゃない」って切り捨てるところ、犬飼らしさ全開だったわ。 あと、死体転がって「うわ、本当に死んじゃった」って呟く温度差、めっちゃ好き。 続き、気になるな…!