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甲斐田晴side
僕の世界には、音がない。
1年前、溜めていたストレスと
寝不足によって。
ある日突然、消えた音。
テレビから流れる音も、
携帯からの音も、
誰かの声も。
全部、聞こえない。
ただ静かな世界。
何を言われたって聞こえない。
顔を、口を見ない限り
何を言ってるのかすらも分からない。
中学3年になった頃。
「いい大学に行きなさい。
ㅤ⠀ㅤㅤそれか医学部に行きなさい」
このセリフ、僕の親の口癖。
父さんは医学部に行けなくて、
普通の大学に通ってたらしい。
母さんは、大学には行けなくて専門学校。
そんな2人からの「いい大学」という圧は
僕には嫌でしかなくて。
小さい頃から勉強、勉強。
遊ぶなんて許されずに勉強。
周りの同級生は楽しそうに遊んでるのに
僕だけはそれが許されなかった。
それでも、小さい頃はそんな2人が大好きで。
2人に褒められたくて、勉強だってやった。
おかげで、学校ではもちろん
塾のテストだって毎回1位。
中学受験をして
地元でトップクラスの中学に合格。
「凄いじゃない!晴!」
「やれば出来るじゃないか」
その時はこんなにも褒めてくれたのに
入学して、どれだけテストで
いい点を取っても褒めてくれることは
無くなった。
⋯1位じゃ無くなったから。
どれだけ頑張っても1位は越せなくて、2位。
だからなのか、親は毎日のように
口癖を僕に言ってくる。
時にはうるさい。そう思うことだってあった。
でも、僕には2人しかいない。
2人の言われた通りにするしかない。
だから、寝る間も惜しんで勉強をした。
そしたら、中2の最後のテスト。
1位になれて、嬉しくて、
これで褒めてもらえる。
そう思ってたのに。
「当たり前じゃない」
そう冷たく言われて。
あぁ、なんのために頑張ってるんだろう。
なんてその瞬間に思って。
頑張る意味が分からなくなって。
その瞬間。
キーンっと耳鳴りがして、
強い目眩に襲われて。
立っていられなくなってその場にしゃがむ。
「⋯はる⋯は⋯⋯⋯る」
母さんが僕の顔を覗こんで
何かを言ってるけどこもって
何を言ってるのか分からない。
しばらくして目眩が落ち着いて、
顔を上げた時には
僕の世界から 音が消えていた。
何も聞こえなくて。
次の日に連れられた病院で言われたのは、
ストレスや寝不足による突発性難聴。
昨日なったばかりの僕は、
入院して治療をすれば治る可能性が高い。
と説明を受けた。
親はペコペコ頭を下げてて、
意地でも勉強続けさせたいんだ。
そう思ったら、本当に嫌になって。
【治療は受けないです】
それだけ紙に書いて、
見せれば驚いた顔の親と医者。
「何を言ってるの」そう言ってくるけど、
聞こえなければ貴方達の圧を聞かなくて済む。
そう思ったら気が楽になるから。
それからどれだけ説得されても
【受けない】を貫いた。
その日からかな。
両親が僕に興味をなくしたのは。
何も言わなくなった。
⋯いや、僕の存在そのものを無くしている。
僕に興味の無くなった2人は今度こそ、
と弟に矛先を変えた。
リビングに行っても、僕のご飯は無い。
用意されてるのは弟のご飯だけ。
いつからか僕は、部屋から出なくなった。
出ても自分のご飯を買いに行く時とか
必要な時位。
中学も聞こえなくなった時点で、
休んだままだし。
友達もいない僕は、
ただ1人この部屋で音のない世界の中にいた。
それから時はすぎて、中学の卒業の季節。
もちろん出ないし、
親から何か言われる訳でもない。
僕がどうなろうとこの2人には関係ないんだ。
そう思った時から決めていたこと。
⋯この家を出る。
行く宛てなんてないから、
ホームレスかなにかになるんだと思う。
お金だっていつかはそこを尽きる。
⋯それでも、
それでもここにいるよりはマシで。
3月下旬。
前々からまとめていた荷物を持って、
夜静かに部屋を出た。
夜中だから親は寝てるし、弟も寝てる。
そう思ったのに、
トントンと叩かれる肩に驚いて振り向けば
弟が立っていて。
「⋯どこ行くの?晴兄⋯⋯」
なんて眠い目を擦りながら聞いてきて
「⋯ごめん。僕、出ていこうと思って」
そういった途端、目を見開いて
「⋯ダメ!ヤダよ⋯⋯」
そう泣きそうな日で訴えられるけど、
僕には謝ることしか出来なくて。
ギリギリまで引き留めようとしてくる
弟の手をゆっくりと引き剥がして。
僕は振り向くこともしないで家を出た。
『ごめん』
たった一言それだけを、
送って家族全員の連絡先を削除した。
#ご本人様には関係ありません