テラーノベル
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♯6「また会おう」
※青桃
※エセ関西弁
※御本人様とは関係ありません
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ないこは少しずつ感覚を失っていった。
人間は、聴覚、視覚、触覚、味覚、嗅覚の順で五感が薄れていくらしい。
「ないこ、ご飯食べへんの?」
「うん、味がしないと食べる気がしないから」
「そっか、少しでも食べれそうやったら言ってな」
やっと笑顔が見れたと思ったのに、今の笑い方は愛想笑いか、力のない笑顔のどちらかだ。
ラベンダーの丘のすぐ側にある塔でひっそりと暮らしているが体調はみるみる悪化していく。
胃の中がブラックホールなのかと疑うくらい食べていたのに、今ではすっかり食事とはいえない状態になっている。
前々から声を張って話さないと、ないこが聞こえにくそうにしていることが多々あった。
きっと、いや、絶対に俺のせい。
最初から分かっていた、人間とこの世ならざる者が関わり続けてはいけないってこと。
「ないこ」
「…ん?なぁに?」
「知っとる?7秒以上ハグしたら幸福感を得るんやって」
そういって飛びつくと、そっか、と笑って首に手を回してくる。
俺よりもほんの少し小さなないこを抱き寄せる。傷んでもなお、ふわふわな桃色の髪。ほのかに香る安心してしまうような心地の良い匂い、幸福を得てしまうのは俺の方かもしれない。
「……ん、まろは優しいよね」
「俺が…?」
「うん、今まで色々やってくれたじゃん『幸せになる方法』」
…違う、違うんだ。ないこがずっと優しくしてくれたから俺にもそんな優しさが芽生えたんだ。
「…それは、ないこのおかげかもな」
塔の屋根に座って夜空を見上げる。
濃い藍色が空一面に広がってその中に煌めく無数の星々、でも頭に浮かぶはやはり桃髪の彼だ。
あれから、ないこはよく眠るようになった。
きっと、呪いが掛かってしまったのだろう。
「……でもそろそろかな、」
ないこが天神様に戻るのは。
ーーーー
起きると、あのラベンダーの丘は無くてそこにあったのは空だった。
空は上を見上げて見えるのではなく、まろと浮いた時と同じような景色。これはきっと夢なんだろう。
温かくて、ここなら何でも出来てしまいそうな雰囲気を纏う不思議な場所。
「……俺、死んだのかな」
思ったことを取り敢えず口に出してみたものの、現実とは到底思えない。
辺りを見渡しても何も無くて、強いて言えば彼岸花が咲いているくらい。優しい光に包まれている。
「あ、まろ居ないじゃん」
ずっと逃避行に着いてきてくれた彼の姿が何処にも見当たらない。
「…何処にいったんだよ、寂しいだろ」
そう弱音を吐いた刹那、視界が青で埋め尽くされる。
「……ま、」
ないこ、今日は何しよっか___
誰、こいつ。直感的にまろだけど俺の知ってるまろじゃないと感じた。
微笑みながら手を差し伸べられ、無意識に握り返した瞬間___
「…あ、ないこ起きた」
「___。」
「……ごめん、もう一回言って」
「おはよう、調子はどう?」
「……そこそこ、」
目覚めるとそこに居たのは俺の知ってるいつも通りのまろだった。夢で見たのは何だったんだろう。
「浮かない顔してどうしたん?」
「そんな顔してる?不思議な夢を見ただけだよ」
「…なら良かった」
「ねぇ、ラベンダー見に行こうよ」
味も感じないし、あんまり聞こえないけどあのふんわりとした独特な匂いをまだ感じていたい。
「ほら、行こ」
手を差し伸べるとまろは何か呟いたみたいだけど、俺には分からなかったし、分からなくてもいいと思った。
ーーーーー
「俺、ラベンダーの匂いとかどうだって良かったけど、好きになったかも」
そう言いながらラベンダーを優しく掬い上げていく。はらはらと落ちていく花びらが神秘的に思えた。
「ないこ」
「…ん?なぁに?」
「……今は幸せ?」
「幸せだよ、俺生きててもつまんないなって思ってたから」
「……うん」
「気づけば知らない神社に着いて、天神様が出てきて、いつの間にか逃避行なんかしちゃって」
「死んでたら出来ないこと、沢山できたし」
「何よりまろに出逢えたしね」
「……もう、なんで泣いてるの」
俺、泣いてなんかいない___
まろったら泣き虫、なんて言って頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
「泣いてへんし」
泣いていない、それは事実だ。ただ視界がぐらぐらと歪んでいるだけ。
「本当に泣いてへん」
「うわっ」
がむしゃらにないこに抱きついた、早く涙が乾くように、見られないように。
「俺今本当に幸せだよ、ありがとうね、お願い叶えてくれて」
「これ以上の幸せって無いのかもなぁって」
「そんな事……」
「いや、ないと思うよ」
「こんなに幸せって強く思う事、中々ないと思うし、無くていい」
「俺の暗い人生を、まろが色付けてくれたんだよ」
まるで、未来のことを分かりきっているかのように言うじゃないか。
「ほんと……ありがとう」
儚く笑うその姿は、心をギュッと掴まれて苦しくて仕方ない。
「……んふ、俺眠くなってきちゃった」
「また明日ね、……いい夢見てね」
「……うん、また明日な」
抱きしめていた力がすとん、と抜け落ちる。規則正しく寝息が聞こえるからまた目覚めると信じたかった。
一日経ってまた夜になっても、ないこはずっと眠りについたままだ。
頭を撫でながら語りかける。
「俺さ、ないこがずっと天には彼岸花くらいしかなくて、ラベンダーの匂いを知りたいって言ってたからここに連れてきたんよ」
「本当は人一人に天神様がいるなんて無いってないこなら分かってくれるよな、あれを口実にするしか無かったんよ」
「……それに、勝手に天から落ちてよ、人間になって……ほんま探すの大変やったんやからな」
「人間のないこも好きだけど、やっぱり俺はお前の方がいいよ」
……もう反応すらしてくれないもんな。
……天神としてまた目覚めてくれるのなら。
ないこは人生からすれば、ほんの少しといえる時間が幸せだったっていってたけど、俺は欲張りやからもっと、ずっと、永遠に近いくらい永い時間幸せでいたいからさ。
「対価ならどうだっていい」
「俺の全て、お前に捧げてやる」
寝たままのないこを起こしそっと抱きしめる。
「…んはは、キスは目覚めてからな」
微笑は静寂に包まれた。
「……これからもどうか、ないこの傍にいれますように」
抱きしめる力は強くなるばかりだった。
「ないこ、ないこはよ起きてや」
「……ん、……やだ、あと3時間…」
「あほか、何回やったんこの会話」
本当に、何時になっても変わらないな。
そして、変わらないのは天界の様子も。
犬耳と輝かしい飾りを揺らす桃色の髪、吸い込まれるような瞳とふにゃっと笑った時に見える八重歯、ずっと見たかった大好きな彼が今、目の前にいる。
「いいじゃん、どうせ俺達の時間なんて無限なんだからさぁ」
「……それは、そうやけど」
「でしょ!!つまりまだ寝てていい!!」
「寝るな起きろ」
「もうまろってば冷たいなぁ…沢山笑うまろが俺は好きだよ?」
「はいはい、そうですかー」
物静かで、冷静だった人間のないこ。でも、俺はやっぱり、天真爛漫でこれでもかと沢山笑うないこがいい。
もう逃避行の記憶は無いのだろうな。またラベンダーの丘に連れてってやらないといけないのか。
…でも、ないこの為なら何だってしてやるよ。
死ぬまでにやりたいことって言ったけど、俺達はどうせ死なないから、言うのはもう少し後にしようかな。
何百、何千年の時を超えても、君の傍で守り続けるよ。
またねってないこが離れても俺は何度だって捕まえに行くよ、手放すつもりなんてさらさら無いし。
あの時はないこの天神様っていったけど、ないこは俺にとって愛しい大切な天神様なんやから。
「さぁ、今日はなにをしようか」
お決まりの台詞を言って手を差し伸べると、君は勿論笑ってその手で握り返すんだ。
今までの逃避行の思い出を胸に秘めるのと同時に、これからの未来に期待して、二人で終わることの無い一生の旅路を笑いながらまた一歩、歩み始めた。
「おれの天神様」ー完ー
コメント
18件
なんか色々と考えさせる小説でめっちゃ好き🥲どんな結末になるんだろーって1話1話読むごとにずっと思ってたよw 取り敢えず、この小説大好きだよ……😭🫶🏻
ぎゃーっ!最後まで見届けれてよかったーっ!🥹てか、その絵かわよい🫶🏻💕
わぁぁぁ‼️素敵な作品がまたまた完結してしまった~!最終話で桃さん天神様なんて思ってなかったです✌🏻 こりゃまた一から見返すしかないね✊🏻 もみじちゃんの連載とかお話は毎回毎回「続きが楽しみ」と「面白かった」を感じれる作品だよ~‼︎いつも色んな感情をありがとう(?)