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第五十二章
神官の忠誠
―贄―
「お久しぶりです、玄武の巫女さま。お加減……如何ですか?」
「ええ……悪くありませんよ」
穏やかな笑顔の二人を、重たい空気が包み込んだ。
「何も……聞かないのですか?」
ふいに羅刹が自嘲めいた笑みを浮かべ、詞葉を見つめる真っ直ぐ…だが不安を孕んでいるようにも見える瞳で。
「羅刹さまは、あの時、話してくださいました。ですから、あれ以上でもあれ以下でもないのでしょう?」
「ええ……玄武の巫女さまのおっしゃるとおりです」
「では、私からは何も言うことはございません」
羅刹が口を開こうとした時、重たい空気が辺りを支配した。
「!? っ……ぁ、っ」
詞葉は持っていた錫杖から手を離し、両手で首元を押さえ倒れ込んだ。
息が……。
呼吸ができなくなった。
周りの木も枯れ、小動物は息絶えた。
「これは……邪神さま!?」
『羅刹……贄は……贄はまだか?』
「!! っ、お待ちください、邪神さま。今すぐ、ご用意いたします」
深く一礼をした羅刹は、懐から短剣を取り出し、詞葉に向き直った。
「ら、羅刹さま、っ……」
詞葉は息苦しそうに涙を浮かべ、真っ直ぐ見つめた。
「玄武の巫女さま……申し訳ございません。やっぱり僕は……僕の全ては、邪神さまのためにあります」
そう言うと、羅刹は短剣を振り上げた。
コメント
1件
うわ……今回、すごく重い空気でしたね。詞葉さんが急に呼吸困難になる描写、読んでいて息が詰まるようでした。羅刹さまが「邪神さまのためにあります」と短剣を振り上げたラスト、もう次の展開が気になって仕方ないです……! 二人の間にある「信頼」と「忠誠」の衝突が切なくて、胸がぎゅっとなりました。輪廻さんの描く感情の機微、今回も本当に繊細で好きです。