テラーノベル
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4人が帰る支度を始め、 みことは玄関で何度も、何度も頭を下げていた。
「本当に……ありがとう。 こんなに作り置きまで……」
らんはタッパーの入った大きな袋を持ちながら、優しく笑う。
「いいって。 みことが倒れたら、すちも一緒に倒れんだし」
「次は絶対、頼れよ? “無理して倒れるのが一番迷惑”って、分かったよね?」
ひまなつが肩を叩き、みことは苦笑して頷く。
「倒れるまで無理すんな。 お前が頼ったら、俺ら誰でも動くからな」
「ほんとにね〜、心配したんだから!」
みんなの言葉に、 みことは申し訳なさと嬉しさで胸がいっぱいになった。
「ほんとに……ありがとう。 次からは……頼る。ちゃんと」
全員が満足そうにうなずき、 玄関を後にした。
扉が閉まると、 急に静かになった部屋に、 すちとみことだけの空気が戻ってくる。
みことはソファに腰を下ろし、 胸の中におさまっているすちをそっと抱え直す。
「……すち」
声が震える。
すちは振り向き、赤い瞳でみことを見る。
みことはゆっくり、 震える指で小さなすちの髪を撫で始めた。
「心配かけて……ほんとにごめんね。 すちを……たくさん泣かせちゃった」
指が触れるたびに、すちの表情がやわらぐ。
すちはみことのシャツをぎゅっと掴み、 まるで大事な宝物を抱えるみたいに胸に顔を埋める。
そして、ばっと顔を上げ、 潤んだ瞳でみことを見つめながら言った。
「みこちゃ……あいしてる!」
一瞬、みことの呼吸が止まった。
すちはそのまま
ちゅっ──
と小さく、けれど迷いなくみことの唇に口づけた。
みことの目が大きく見開かれ、 そのまま頬が一気に赤く染まっていく。
「……っ、すち……」
みことは胸がいっぱいになり、 小さな体をそっと抱き寄せた。
すちは恥ずかしそうに笑いながら、 みことの胸にぎゅむっとしがみつき、甘い声で囁く。
「みこちゃ、いっしょいよ……?」
みことは泣きそうなほど優しい声で答える。
「いるよ。 すちのそばにいる。 ……ずっと、ね」
すちは安心したように息をふぅっと吐き、 みことの胸に顔をうずめたまま、 すこし震える声で「すき……」と呟いた。
ある日のみことの何気ない呟き──
「俺なんかのどこが好きなんだろ」
その言葉を聞いた瞬間、すちはびくっと肩を震わせ、両手でみことの口を塞いでいた。
「めっ!!」
勢いよく、けれど涙の気配を残した声。
みことは驚いて目を瞬かせる。
すちの顔はむくれつつも必死で、 まるで“そんなこと言わせない”と訴えているようだった。
「みこちゃ……“なんか”って言った」
「……だって」
「だってじゃないの!」
口を塞いでいた手をそっと離し、すちはみことの頬を包む。
その瞳は怒っているはずなのに、奥には不安が混ざっていた。
すちは深呼吸をひとつしてから、ぽつりぽつりと言葉を重ねる。
「……みこちゃのすきなところ、いう」
抱きしめる腕が少し強くなる。
「いちばんは、わらったおかお。 キラキラしてて、みてるだけで、ぎゅってなるくらい、かわいい」
みことは照れて顔を逸らすが、すちは逃がさないようにそっと戻す。
「あとね、はずかしくなるとすぐあかくなるところ。 それ、すちしかみれないの……すごくうれしい」
頬の赤みを指でなぞりながら続ける。
「きづかいやさんで、やさしくて、だれかがこまってるとほおっておけないとこもすき。 すちのことだいじにしてくれるのも、だいすき」
少し息が震える。
「……でも、いちばん、ぎゅうってなるのは── みこちゃがすちをもとめてくれるとき」
大きな目がうるむ。
「すちのこと、だいすきっておもってくれるとこ。 それが……ほんとに、いちばんうれしいの」
みことは胸が熱くなって、気づけばすちをぎゅっと抱き寄せていた。
「……すち、ありがとう。俺……そんな風に思ってもらえて、嬉しいよ」
すちは抱きついたまま、ほっとしたように小さく呟く。
「だから“なんか”いっちゃだめ。 みこちゃは、すちの“だいすき”なんだから」
その言葉のあと、すちはそっと唇に触れるようにキスを落とした。
コメント
2件
思うんです。この作品最高にいい作品です!もちろん他作品もめっちゃいいです!(๑•̀ㅂ•́)و✧

お2人のふんわりとした でも力強くもある優しさがたくさん伝わってきて大好きです🥰