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「さて、どこで寝ようかな」
俺の独り言は、変に赤い夜空に吸い込まれていった。
街灯の明かりに照らされた道をぶらぶらと歩き、小さな公園の角を曲がって住宅街の外れに向かう。
ここから十分ほど歩いたところに、小さな裏山があった。このあたりの住民たちからは『山』と呼ばれているけれど、どちらかと言えば『丘』という感じの低さだ。
なんとなく、人気のないところがいいな、と思い、俺は裏山の方に足を向けた。
裏山のふもとは崖のようになっていて、岩肌が剥き出しになっている。
その崖に、一ヶ所、ぽっかりと穴が空いているところがあった。
「……ボークーゴー」
子供の頃、お母さんから聞いた。
『あれは防空壕っていって、戦争のときに、爆弾から逃げるために掘られたのよ。兵隊さんの幽霊がいっぱい出るから、絶対入っちゃダメよ』
幼かったから、幽霊と聞いて縮み上がってしまって、ここには近づかないようにしていたっけ。
今思えば、この中で子供が遊んだ凛しないように、この辺りの大人達は皆そういうだろう。
俺ももう中学生だし、幽霊なんていないともちろんわかっている。
防空壕は確かに不気味だけれど、背に腹は代えられない、というやつだ。
俺はひとつ深呼吸をして、防空壕に一歩一歩と近づいた。
住宅街の夜は、街灯もあるし、家々の明かりもあるし、それほど暗くはない。
でも崖の裾にぽっかりと空いた穴の向こうにはどんな明かりも届かず、本当に真っ黒だった。
本物の暗闇、という言葉が頭をよぎった。
どんなに目を疑らしても、そこには何にも見えないのだ。
高鳴る鼓動を意識的に無視して、俺は防空壕の前に立った。
入り口から一歩踏み込んだところに何があるのか見えないくらい、まったく奥行きもわからないくらい、真の闇。
ぞく、と全身の肌が粟立った。
でも俺は、自分の心を鼓舞して、中に足を踏み入れる。
だって、誰にも見られずに一晩しのげるところなんて、ここくらいしか知らない。
中に入った瞬間俺の視界は完全に闇に奪われた。
足がすくんで、それ以上進めない。
恐怖心を振り払うように、俺は乱暴な仕草で足許にカバンを落として、その上に座った。
足許から、ひんやりとした冷気が上がってくる。
夏だなんて信じられないほどだ。
今はまだ初夏だから、確かに夜はひんやりと肌寒い日もあるけれど、それにしても、ここまで寒いなんて。
昼間も陽が当たらないからだろうか。
それとも、本当に……いや、そんなはずがない。ありえない。
自分の考えでまた背中が寒くなるのを無視して、俺はカバンから体育用のジャージを取り出した。
春からずっと学校に置きっぱなしにしていて、たまたま今日、そろそろ持って帰ろうかと思ってカバンに入れていたのだ。
まさか野宿する羽目になるとは思っても見なかったけれど、ラッキーだった。
これで凍死しなくてすむ。
俺はジャージの上下を着て、冷たい土の上に寝転がった。
奥の方は真っ暗な闇で、何も見えない。
そこに何が、あるのか、何がいるのか、全くわからない。
俺は奥を見ないように入り口に顔をむけて、ゆっくりと目を閉じた。
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