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前が見えないのは、 こぼれて波立つ涙のレンズのせいだ。

ゆらゆら揺れる目の前のシルエットが誰なのか…そもそも本当に人間なのかも今の僕には判別できない。実際は僕は木に向かって独り泣き崩れているのかもしれない。

でも、そう。ここに来るのは僕とお前しかいない。だからこれはお前のシルエット。

ひくっと喉が引き攣った。

泣いている時特有の喉仏を潰されるような感覚に更に涙が溢れる。どうしようもなく心が乱れて止められない。

お前に掴みかかりたかった。

でも僕は結局こんな所まできても、腹の底でぐらぐらと煮立っている怒りを涙と言葉以外では吐き出せなかったのだ。

あぁ、そうだよ認めるよ。 僕は幼稚で意気地なしのクソ野郎だ。きっと死ぬまで治らない。

でもお前よりマシだ。


「…お前が!あんな事言うから!」


くそ、最初に言いたかった事はこんな言葉じゃないのに。もっと手酷いサイアクな言葉を掛けてやるつもりだったのに。


「僕のせいじゃない!お前が悪いんだ!」


なのに、これじゃ僕が悪者だ。 違うのに。お前が絶対悪いのに。

僕はお前を信じてたのに、お前は僕の信頼を利用した… 裏切ったんだから。

だから文句を言いたいんだ。お前が降参するまで詰って、反省するまで泣き叫びたかったんだ。だからお前は本当にサイアクなクソ野郎だ。


「……僕たち、友達じゃなかったのかよ」


シルエットはゆらゆら揺らげど動かない。

それを睨んで、でもこんな事意味がないって解っていて、虚しくなる。怒鳴るのも詰るのも、実際は何の解決にもならない。


「あれ全部嘘笑いかよ。……お前にとっての僕ってただの他人だったんだな」


僕の気持ちだって欠片も晴れない。

でも、涙なんて拭くものか。 お前の顔なんて見たくもない。 僕は本当に……心の底から傷付いて、怒ってるんだ。本当に、本当に…。


「…………嘘じゃなかった。お前のこと本当に心配してたし、もう大丈夫って言われた時、本当に嬉しかったのに……」


何に価値を置くかはその人次第。

お前から言わせれば、時たま会いに来る友人なんて大した価値にはならなかったんだろうな。適当にあしらって淘汰しても、どうでも良かったんだな。


「…ごめん………ごめん……」


どこからやり直せば良いのか分からない。やり直したって何にもならないかもしれない。

でもお前に会えるうちに、話せるうちにもっと文句も謝罪も言っておけば良かった。

全部、もう取り返しがつかない。

シルエットが近付いて来た。 そっと躊躇いがちに腕を伸ばしてくる。 僕はそれを払い除けなかった。

その代わりに、近寄るシルエットに聞こえるように一言だけ呟いた。


「……お前、誰なんだよ…」


あいつは死んだのに、今ここにいるお前は一体『何』なんだ。




ずっと虐められていた。 ずっと死にたかった。

でも流石に死ぬのにはまだ抵抗があったから、代わりにいつも校舎裏の山でうずくまった。 土の中に埋まったみたいで落ち着けたから。

ある日同級生に見つかった。

傍観者の一人。オドオドしてて、目が合ったら思いっきり顔まで背ける素直な子。いつも誰かに首を絞められているみたいな、すごく生きづらそうな子。

その子はここぞとばかりに僕に謝った。

まぁ、 今更どうでも良かったし許すなんて一言も言ってないし。でもその子は勝手に仲良くなった気になって時々山に来るようになっちゃった。

すごく邪魔だった。 早く帰ってくれないかなぁって。

でも一応時々話しかけてやるとすごく喜んで、へらへら笑うんだよその子。それがね、すごく間抜けな顔なんだ。面白いんだよ。

死んだ自分を想像するのも楽しかったけど、この世界にその子と二人きりなんだって考えるのもそんなに悪くなかった。

けど勘違いしないでほしいな。

僕は別にあの子に救われるとか、そんなの全然無かったんだから。ずっと相変わらず死にたかったんだよ。なんにも変わってなかった。

でも死ぬ時間帯は、いつもあの子と話していた時間帯がいいなぁって思う様になって……そしたらどんどん本当に死にたくなっちゃった。

だからあの子に嘘ついて、少し早めに家に帰して線路に飛び込んだんだ。……あの木で首をくくるのも考えたけど、あんまり気乗りしなかったから。

死ぬ瞬間はそれはそれは幸せだったよ。 でもね、バチが当たった。

気がついたら、あの木の側から離れられなくなってたんだ。うわ、最悪だって思ったよ。今度はもう終わり方も分からないんだもん。

やっぱり嘘が良くなかったかなぁ。適当にさ、「もう大丈夫だよ、君と生きてみたくなったからさ」なんて。あの子、あんなに幸せそうに笑ってたもんなぁ…って思うとね、じゃあ仕方ないかって。

はは、僕も絆されたもんだよね。

でも驚いたなぁ、あの子僕のこと見えてるし。すんごい怒ってるし。泣いてるし。



『……そうだよ、君は悪くないよ。僕の性根が腐りきってただけだからさ』

「………触るなよ…」

『でも君もすぐ忘れるよ、僕のこと。僕が君に救われなかったように、君も僕のせいで何かが大きく変わるなんてこと起こり得ないんだ』

「くそ……許さないからな……」

『………うーん』


声だけ、届かないんだよな。 罰だからかな。すごく苦しいなぁ。


『……………ごめんね』


僕たち、本当に友達だったよ。

でも、


ここにいるのは僕じゃないし、

僕と君は友達じゃなかったし、

僕は君を淘汰したクソ野郎だ。


そういうことにしよう。 せめて君が前を向けるように。

ごめんね、本当にごめんなさい。 君と友達になってごめん。


……やっと死ねたから言うけどね。


僕を助けようとしてくれて、ありがとう。

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