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一心不乱にモニターを睨みながらキーボードを叩いていると、突然目の前に紙袋が置かれて驚いて顔を上げた。見ると有名なケーキ店のロゴが入った紙袋を、社長が私に渡そうとしていた。

最近仕事帰りポテトにほぼ毎日会いに行っているのと、仕事が忙しいこともあって疲れていたのか、社長が入ってきたのにも気づかなかった。


「申し訳ありません。お帰りになったのに気付きませんでした」


慌てて立ち上がって社長から紙袋を受け取ると、彼は少し心配したような顔をしながら私を覗き込んだ。


「最近落ち込んでいたみたいだから少し元気が出るかと思って。ここのケーキ好きだって前言ってただろう?」


「えっ……?」


びっくりして思わず社長を見つめた。実は彼にこうしてお菓子を貰うのは2度目だ。先週は私が好きだと言ったチョコレートを買ってきた。


社長室に消えていった社長を呆然と見た後、五十嵐さんに視線を移すと何故か奇妙な顔をしながら私の手にした紙袋を見つめている。


「あの、これせっかくですので今皆さんにお出ししますね。五十嵐さんはコーヒーとお茶どれにしますか?」


五十嵐さんはハッと我に返ると「それじゃコーヒーで」と言って再び仕事を始めた。


ケーキとコーヒーを持って社長室に入ると社長は輝くような笑顔を見せた。さすがイケメン。破壊力が半端ではない。


「コーヒーと一緒にどうぞ。あの、ケーキありがとうございました」


「いいえ。最近何か悩んでるみたいだけど、なんでも相談に乗るよ。」


彼は頬杖をつきながら優しく私を見つめる。そんな彼を私は姿勢を正しながら訝しげに見た。



── 何かおかしい……



以前は私に見向きもしなかったくせに、最近私にやたら構ってくる。


歓迎会や夕食をしたいと食事に何度か誘ってくれたが、最近はこうやって食べ物を持ってくる。親切心からなのか下心があるのかその辺の微妙な線引きがわからない。


過去に色々と男性からの問題が絶えなかった私は、こういう好意も警戒し過ぎて素直に受け取れない。


私は社長の後ろにある窓に映った自分の姿を見た。地味な髪型に大きな分厚い眼鏡、スーツも体の線がわからない寸胴に見えるものを着ている。



── まあ、私の考えすぎかな?



私は社長を再び見た。彼は端正な容姿をしていておそらく女性に常日頃モテている。こういう男にとって女性は選り取り見取りだ。わざわざ私のような地味で醜い女の気を引こうとする訳がない。しかも彼には婚約者がいる。


「いいえ、仕事のことで悩んでいるわけではないんです。実は犬を保護するボランティアをしてるんですが、そこで保護している一匹が調子良くなくて……。それで仕事帰り様子を見に行ったりしてたのでちょっと疲れてしまったんだと思います。ご心配おかけして申し訳ありません」


「七瀬さん、そんなボランティアしてたの?」


桐生社長は少し驚いたような顔をした。


「はい。実は子供の頃から家族ぐるみでこういうボランティアをしていて、アメリカにいた時もずっとしてたんです。それで帰国した後すぐにこのボランティアを見つけてまた働いてるんです」


「へー、そんなボランティアしてたんだ。それで金曜日に誘っても断ってたんだ」


「はい。すみません。」


彼は私を見たまま何か考えている。


「俺も行ってみてもいい?どんな活動してるのか見てみたい」


「えっ……?」


私は驚いて社長を見つめた。一体何でまた……


「あの、ボランティアといっても活動自体は本当に地味で……。犬は汚い状態で保護される場合が多くて、そんな社長の考えているような楽しいものじゃないかもしれません」


「別に楽しみたくて行くんじゃないんだ。七瀬さんがどんな事をしているのか見てみたいんだ」



── うーん。どうしよう。


社長が着ているブランドの服や腕時計にざっと視線を走らせた。


犬の保護をするなんて聞こえはいいが、病気の犬の面倒を見たり歳を取ってておしめをしているような犬の世話や車での移動もある。車も服も犬臭くなるし、はっきり言えば汚い仕事だ。本気なのだろうか?


「あの、社長。何も直接犬の世話をしなくても募金という方法があります。社長もお忙しいですし、そういう手助けができる方法もあります」


そう言ってにっこりと微笑んだ。うちの保護団体は常に金欠だ。社長はお金持ちそうだし、うまくいけば高額を募金してくれるかも……?


「もちろん寄付もするつもりだけど、一度見てみたいんだ」


「………」



── ああもう、わかったわよ。連れていけばいいんでしょう。本当に後悔しても知らないから。



私は頭の中で保護団体のスケジュールを思い浮かべた。


確か今週末の日曜日は、ベッドやドッグフードなどを寄付してくれるペットショップに取りに行く予定になっている。これだったら大丈夫かもしれない。


「今週末の日曜日の午後はどうですか?」


「大丈夫だ。午後1時からずっと空いてるから」


社長はものすごく嬉しそうな顔をした。私はそんな彼を少し怪しげに見つめた。


彼のここ最近の私に対する関心は一体何だろう?親切心なのか下心なのか、もしくはただの気まぐれなのか全く読めない。


「承知いたしました。ではまた詳細を後ほど連絡します」


私は眉根を少し寄せながら、デスクに頬杖をついたままニコニコしている彼を残して社長室を出た。





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