テラーノベル
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「大丈夫ですか?」綺麗な声に驚いて、ゆっくりと、顔を上げる。
!?!
眼鏡の奥に隠された、吸い込まれてしまいそうになるほど、大きな瞳、雪のように白くて、綺麗な肌、眼鏡が醸し出すミステリアスな雰囲気とは対照的な、アヒル唇、魅力そのものを集めたような美しい容貌に見とれてしまう。
「えぁ、」
相手から、混乱の声が漏れる。
自分が思っていたよりも長く見つめていたのだと悟り、羞恥心で顔が赤くなっていくのを感じる。
「だ、大丈夫です!」
ほんの一瞬の沈黙が流れる。
「良かったです、タクシー捕まえましょうか?」
「いえ、バランス崩しちゃっただけなんで。」
その人が大きな目に当惑の色を浮かべる。
苦しい言い訳を、少しでも拭う為に、微笑んで見せる。
好意恐怖症だなんて、信じてくれる人の方が少ないから。
(笑顔引きつってないかな・・・)
「ほんとに、ありがとうございます、助かりました。」
「いえいえ 笑。」
その人が艶やかな笑顔を浮かべる。
不意に心臓がトクンと音を立てた。
嫌な音じゃない、初めてのことをする前の胸の高鳴りの様な透き通った音。
「お怪我ないですか?」
「はい、お陰様で。」
「良かったです、良かったら、この傘、使ってください。」
柔らかい、笑みを浮かべたまま、一緒に入っていた傘を差し出される。
「そんな・・・えと・・・」
名前が分からず、言葉を詰まらせてしまう。
「あ、元貴っていいます。」
「好きに呼んでください。」
「じゃあ、元貴さんで。」
「で、さっき、何て言いかけたんですか?」
名前を知れた事への喜びに浸る。
「あ、元貴さんが濡れちゃいますって。」
「折り畳み傘も持ってるんで、大丈夫です。」
「でも、返せないし、、」
流石にそれは申し訳ない。
「いいんです、風邪、引いちゃいますよ?ほら、フルートも濡れちゃケア、大変だし」
「あ・・・」
不意に下に目を落とすと、肩にかかっているフルートのケースに雨が染み込んでいくのが分かる。
(これは、マズいかも、フルートが・・・)
暫くいろいろ考え、
「やっぱりお借りしてもいいですか?」
そう言う。
「はい、もちろん。」
「ほんとに、ありがとうございます!」
「いえいえ、電車ですか?」
「はい。」
僕に傘を渡して、元貴さんがカバンの折り畳み傘を差して、ゆっくりと歩き始める。
「折角ですし、駅まで一緒に行きましょ?」
「はい!」
他愛のない、話をしながら帰った、僕の通う、明桜高校のある駅よりも9個先の駅で僕は降りた。
たまたま、同じ電車だった元貴さんは、笑顔で手を振ってくれた。
なんだか、名残惜しいな。
To be continue…
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