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今や、身の回りの全てが明るく、希望に満ち溢れている。職場では仕事ばかりの堅物で、家に帰るとのん兵衛で、上司や同僚の悪口を一人ブツブツ言ってばかりいる、幼少の頃からまともに口も利いたことがなかった父は、一緒に飲むと実は気さくな人だと知った。子供の頃には分からなかったことだ。昔の記憶をいつまでも引きずっていたのは、実は俺の方だったらしい。
父はダイニングテーブルで、ラキのグラスを傾けながら言う。お前が最近明るくなって、毎日が楽しくなったよ。それに、これまで知らず知らずお前達に苦労かけてたことに今更ながら気付かされた。一生懸命働くことだけが自分の使命だと考えていた。それを分からないお前の母さんは身勝手で理解のない人だと思っていた。自分が少しばかり勉強して育ったから、お前もそうするのが当然だと思っていた。でも今、お前達に寂しい思いをさせていたことを、痛いほど感じている。どうか許しておくれ。
父よりも先に帰ることのなかった母が最近、夕方には帰ってくるようになった。柄にもなく台所に立つようになって、慣れない手つきでチャイを煮詰めながら言う。お前が話しかけてくれるようになってから、気持ちが明るくなったよ。今まで母と威張れることはろくにしてこなかった、父さんにも妻と呼ばれることをしてこなかった。これからはいい母さんになるようがんばるから、いいかいクタイ。母はそう言いながら、俺の前でおいおい涙を流すのだった。物心つく頃から父の仕事だと思っていた居間の掃除を、母がするようになった。さらに机の上の裸の札が消え、なにやら買い物をして帰ってくるようになったときには、驚きを超えて息が詰まりそうになった。