「僕と馨君は逃走経路の確保兼、逃走者の拘束」
「チッ、んなもん全員ぶっ殺せば早いだろ」
普段よりも一層青筋を際立たせて、真澄は舌打ちを響かせる。同意したい思いは強い。
けれどもその逆恨みで四季の生命を絶やされたくは無い。
「最優先事項は四季の救出だ」
細く目を光らせた無蛇野は、無機質なコンクリートで出来た壁を睨みつける。
「地上には桃は誰も居ないので、入ってすぐ地下に降りちゃって大丈夫です」
「…四季ちゃん見つけたらすぐに連れてきて、何が何でも治すから」
非戦闘部隊といえど人並み以上に戦闘はできる。それでも2人は外で待つ。
馨は全てを見るために。
花魁坂は四季を確実に死なせない為に。
「ダノッチもまっすーも…俺たちの分まで、頼んだよ」
「あぁ…任せろ」
「頼まれなくても、わかってんだよ」
「紫苑、幽、波久礼…ぶっ殺してこい」
「勿論そのつもりだ」
「先輩に手を出されている、ゲホッそれぐらい当然だ」
「全員ニャン殺し確定だからな」
インカムを通して馨の声が耳に届く。
「正面玄関のすぐ右手側に待合室があります」
「待合室のナースセンター内にあるデスクの下に通路が隠されてます。そこから地下に潜ってください。」
正面玄関は今では珍しい両開きのガラス扉。山奥にあるはずなのにその取手には埃一つ付いていない。
「チッ…」
取手を握り軽く押せば人が出入りしているのがしっかりと分かるほどに簡単に開いた。施錠すらもされていない。
それほどまでに見つからない自信があったのだ、けれど実際に今日の今日まで四季がどこにいるか情報一つなかった。その事実に真澄は再度舌打ちをする。
馨の指示通り、デスク下には警戒のけの字も見当たらない簡素なトラップドア。
小さく叩けば音は長く響く。
空洞。
無蛇野に向けて頷いた真澄が静かに開ければ、戦闘準備を整え終えた無蛇野が飛び降りり。
次に紫苑、猫咲、印南。最後に真澄が飛び降りた。ブーツの底と床が当たる『ダン』という音が地下に響いた。
その音で白い制服の人間が数人顔を出した。けれどもその瞬間に真澄が手に持っていたナイフで頸動脈を掻っ切られた。
声を出すこともできずに喉を抑えながら息を必死に吸おうと汗を垂れ流している桃。
ザッと雑音が一瞬混じり馨の声が聞こえる。
「一ノ瀬先輩は地下3階、1番奥にいます。」
「桃は各フロア150人程度です」
「…分かった」
「!…俺と無蛇野は先に下に行く」
「ここはお前らがヤれ」
傘を片手にさっさと走り出した無蛇野を追いかけながら、後輩3人に命令を残す。
「じゃあ、雑魚掃除と行きますか」
サングラスの奥で笑っていない目をした紫苑。
「先輩が帰る道を作らなければ行かない」
口から流れた血を袖で乱雑に拭いている印南。
「命令されなくても分かってる」
前髪の影から冷たい目で睨みつける猫咲。
各々が一言ずつ落とすと同時に、指を噛み、腕のジッパーを開き、切傷を刻みだす。
『血蝕解放』
3人の声は気味悪い程に明るい地下に揃って響いた。
番外編1
「ねぇ…ダノッチ」
会議用のデスクには数多の書類が散らばっている。桃太郎の情報から、廃墟。ビル。病院。桃太郎の息が掛かっていそうなものから関係がなさそうな書類が散乱している。
どれもこれも、同級生且つ思い人を探すための物。
紙と睨めっこをしながら花魁坂は2人しかいない部屋で真っ正面にいる無愛想な同級生の名前を呼んだ。
「なんだ」
「ダノッチは四季ちゃんのどこが好き?」
「俺は〜、真っ直ぐすぎる性格でしょ、優しいとこでしょ、度胸もあるし…」
書類から目を離すこともなく京夜の話を耳に通していたのに、京夜から発せられた突然の事に文字を滑る視線を止めた。
聞き返す暇を与えず1人で京夜が語り出した。
今は居ない、会えない行方不明の四季のことを。
「…」
好きなところなど言い出したらキリがなくなる。四季という存在自体が好きなのだ。
『俺は鬼も桃太郎も関係なく笑い合える世界にしたいんだ』
『無人、ありがとな!無人のお陰で助かった』
『無人もう一回!!』
学生の時の記憶にいる四季はいつも楽しそうにしているのにふとした瞬間に変に大人びた淋しい目をしている。
「………バカなところだな」
愛おしそうに目を細めて笑った無蛇野を見た花魁坂は目を見開き、そんな表情も出来るのか。と笑う。
「…確かに。四季ちゃんはバカだからね…」
『会いたい』
その思いを持って2人は再度、書類に目を通し始めた。
番外編2
「一ノ瀬先輩に会いたい…」
数日続いた激務によって馨は瀕死だった。勿論死んではいないし重傷を負った訳でもない。
強いて言うならば新人に対する上官の対応。それが原因のストレス。
「入隊1ヶ月でこれは辛い…」
ベットに倒れ込みながらエクトプラズマを吐く勢いで深く息を出し切った。
自分の先輩に当たる淀川は多少対応が優しかろうと、つい最近まで学生だった身分では精神的にも肉体的にも疲れが溜まる。
「明日は…一ノ瀬先輩が偵察部隊に来る日…」
『馨!またデカくなった?良いな!!』
『馨は飲み込みが早いなぁ…』
『頑張れよ!!馨!』
記憶の中で自分を鼓舞してくれる先輩を思い出しながら、短く息を吸って体を起こす。
「…シャワー浴びて来なきゃ」
先週出せなかったのでお詫びも含めて番外編×2です。
1の方は既に四季ちゃんが居なくなった時期です。同じ人を好きなのに恋バナってなんだよって思いますけどね…
2人が言ってたバカは、褒め言葉です。
2の方は新人の馨さんが、色んな部隊に応援に来る四季ちゃんに会いたがるっていう…感じです。
他の人のも出せって思いますよね…自分も思います。
コメント
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とても続きが楽しみな作品です! ありがとございます😊