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年が明け一月、冴え冴えとした空が広がる頃。冬休みだからと詰め込んだバイトを終えた俺は、夕方の穏やかな白浜の波を見ながらただ家に向かっていく。
あいつとはクリスマス以降、会っていない。
今すぐにも新作を書くと意気込んでいたが次の日に、ちょっと都合が悪いからとレンラクしてきやがった。
あれだけの騒動を起こしたヤッベェ男だと、母親や医師からの出禁かとガラにもなく詫びに行ったが、あいつの母親から熱を出し面会謝絶となったと知らされた。
……俺のせいだ。
母親は俺の立ち入りを許可してくれていて、あいつは「クリスマスケーキ、ホールで食べちゃったせいなんだぉ」とか、どこまでもバカみてえなウソをつきやがって、ホントそうゆう奴なんだよなっと胸が締め付けてきやがる。
ピコン。
メッセージアプリの通知音に反射神経ゲーでもやってんのかと思うぐらいに瞬時に手に取って中を開くと、「やっほー! 熱、下がったことにより面会謝絶解除! 連絡待ってまーす」という腑抜けた文章に、スタンプとかはうさぎがハートを持ってやがる。
なんだよ、これ。
締め付けられていた胸は今度は熱くなり、思わずブチっとスマホを切ると、真っ暗になった液晶パネルは俺のユルんだ口元を映しやがる。
……いや、お前誰だよ?
自分の頬をベチベチ叩くという奇行をしながら既に考えておいたダルい文章を送りつけ、イソイソと準備する俺は側から見たらヤベェ奴だろう。
今から行く……は、ないだろ?
やっぱなしだとスマホを手に取るが画面横に既読と表記されており、終わったー! と頭を抱えるが、返信には「いいの? ありがとうー! 売店でご飯買ってくるね、何がいい?」と、「?」の点にハートが付いた絵文字で締めやがって、ホントにこいつは……。計算じゃねーのが、一番タチ悪りぃよ。
そっか、そうだよな。こいつが飯なんか作れるわけねーもんな。
仕方がねーけど、もっと味わっとくんだったな。
夕陽に照らされた食卓テーブルから目を逸らして「いらねぇ」と返し、出来るだけ菌を持ち込まないようにと風呂に入る。
良いだろ、別に。あいつと俺には「今」があるんだからよ。
ファーストファッション店で買っておいた厚手のジャンパーを羽織り、充分に乾いた髪を確認して家を出ていく。
こないだの雪が降る中での上着なし、濡れた体での特攻はさすがにムチャクチャで風邪引いたから、あいつにうつさねぇようにと自分に定めたルールだったりする。
あいつの母親に詳しく病状について聞いたが、小児癌でステージⅣらしい。末期とまではいかないが根治は難しいとされているらしく、どこまで治療を続けてどこで終わらせるか。その選択が迫られる段階まできているらしい。
治療するということは副作用があるし、止めることはつまりそうゆうことだ。
今は治療の休息期間で比較的体調は安定していることから、執筆するなら今がタイミング的に良いだろう。
ムリしねぇように締切が半年ぐらい先のを見つけといたから、それを。
「あ、私、もう決めてあるから」
俺の提案を聞くまでもなく差し出してきたスマホには、聞き馴染みのある青春文学賞名が載っていて、締切は四月末だった。
こいつはこの出版社が好きで、作品全て集めてると言っても過言じゃねーくらいには買い揃えていて、明らかに作風の影響も受けてるぽいっけどよ、ここは応募数千は超える人気レーベル。
ここの大賞で三次選考までいってるが、その後の最終選考に残れず苦い思いをしている。
プロ作家も応募してるほどの、実力者揃いの小説大賞だからな。
あと三ヶ月。これから構想を練るとして、間に合うか?
募集は半年に一度。十月締切の方にするように話すが、時間的に追い詰められないと書けないからと聞かねぇ。
まあな、こいつは時間制限ないと文体にこだわってしまうというクセもあるし、言ってることも一理あんだよな。
「分ぁったよ」
執筆スタイルは個々によって違う。だから聞いてやることにした。
決して、こいつのキラキラ攻撃に屈したわけじゃねーし。
「んで、何か書きてぇ話とかあんのか?」
冬休み最後の日。朝っぱらから病室に押し掛けた俺は、前回渋って言わなかった本音を探る。
何だよ、そんなに言いにくい内容なのかよ?
「……直樹くんにお願いしたいことがあるんだけど……」
「あ? 前置きとかいーから、さっさと言えよ」
どこまでも悪態をつき、ホントにどうしようもねーな俺。
彼女が綴る作品。それこそ寿命を削って書く最後の物語。
だから俺は何でもする。何でも。
そんな本音が言えたらいいのによ、まったく。
「私ね、直樹くんの話が書きたいの」
「俺ぇっ!」
はあ? よりによって、俺かよ? おいおいおい、そんな作品ヤッベェぞ!
想定外過ぎる申し出に、不良高校生の悪態全集しか思いつかなかった。
「うん。あなたがどうして小説を書き始めたのか。達也さんとのこと、そしてこれからの人生を書きたい。それが私の最後に書きたい物語なの」
「俺なんかつまんねぇ人生論しかねーし、いや、0次選考落ちだ! ぜったいにやめろ!」
「そんなことないよ! つまらない人生なんてない! ……だからさ、どんな人生を歩んできたのか教えてくれない? 私は、あなたについて知りたいの」
その真っ直ぐな瞳に、次の言葉が引っ込んでいく。
なんなよ、こいつには何でも話したくなるんだよな。
達也とのことを話したのもそうだったが、ホントに不思議な奴だ。
こいつには何でも話せる。いや、聞いて欲しい。そう、思わせてくれた。