私はまず、手に持っている水晶のことについて話した。
【時戻り】の発動条件、ソルテラの血筋が途絶えることを。
それを伝えるということは、ブルーノとの血のつながりが無いという残酷な事実をオリバーに伝えることになる。
そして、私が何故【時戻り】をすることになったのか経緯を語った。
当主となったブルーノに遺品整理を命じられ、その作業の際に偶然この部屋を見つけたこと。それからあの手この手で様々な情報を掴み、八度【時戻り】を行っていることをオリバーに話した。
「……」
オリバーは始め、何を言っているのか分からないといった表情をしていたが、遮ることなく黙って私の話を聞いていた。理解しようとしてくれた。
「――というわけです」
長い説明を終えた私は、ふうと息を吐いた。そして、オリバーをじっと見つめる。
「八回、僕は死んでいるんだね。そのたびに、君はその水晶を使って【時戻り】を行っていたと、そういうことなんだね」
「はい」
「やっと、僕にこの部屋の存在を伝えられたんだ」
「その通りでございます」
「……エレノア、よく頑張ってくれた」
オリバーは私の話を信じてくれた。
そして八回【時戻り】をした私に感謝の言葉を告げる。
「僕にこの本を渡したということは……」
「そこにオリバーさまが望む、二つの秘術について書かれています」
「そっか」
オリバーは私から受け取った初代ソルテラ伯爵の手記をパラパラとめくる。癖の強い字、ソルテラ伯爵にしか読めない暗号をさらっと目を通している。
「そう、みたいだね。これで僕はソルテラ伯爵として責務を果たせる」
オリバーに隠し部屋の存在を伝え、前線へ向かう前に二つの秘術を習得してもらう。
私の目的が今、果たされた。
「責務を……、果たすんだ」
「?」
失われた秘術が見つかったというのに、オリバーの反応が良くない。
オリバーの独り言は、決意の表れなのだろうか。
私は思った反応と違うと感じ、首を傾げた。
「ああ、ごめん。ただの独り言さ」
私の視線に気づいたのか、オリバーは何でもないと平常心であることを私に示した。
「エレノア、今まで頑張ってくれてありがとう。気持ちは落ち着いたかな?」
「はい。おかげさまで」
「じゃあ、仕事に戻っておくれ」
「はい。失礼いたします」
用を終えた私は、隠し部屋からオリバーの私室、そしてドアを開けて廊下へでた。
パタンとドアを閉め、一人になった私は「やったっ」と喜びを身体で体現する。
(これで、オリバーさまは戦争から生還する。私の【時戻り】も終わる)
そう思ったのだけど、この後、私はブルーノからオリバーの死を告げられる。
☆
今回はオリバーがブルーノに釘を刺したおかげか、それとも化粧の成果が出たのか、彼の嫌がらせは無くなり、私の名前を覚えるまでの仲になった。
メイドの仕事は順調に進んだ。
そして、月日が経ち、オリバーは二つの秘術を習得した状態で戦場へと向かう。
これで戦争は終わる。
オリバーが生還し、屋敷に戻ってくると私はそう信じていたのに。
「オリバーは死んだ!」
運命の日、ソルテラ家の屋敷の広間でブルーノが私たちに当主の死を告げた。
そして、オリバーの遺品の整理を命じる。
私が立候補し、掃除の先輩を無視してオリバーの私室へ入り、隠し部屋に入った。
水晶は青白く光っている。ソルテラの血筋が絶えたことを示している。
「これを見つけるのも”八回目”ね」
私は水晶を手に取り、何度も聞いた文言を耳にする。
次の【時戻り】と行きたいが、私はすこし考える。
(今回の【時戻り】は完璧だった)
オリバーに隠し部屋と秘術の存在を伝えた。
これが私の考えた道筋。これでオリバーの運命が変わると思っていた。
けれど、オリバーは戦死した。
秘術を体得しているのに、私には「使う」と言い切っていたのに、秘術を使わずに死亡した。
(戦場でマジルの工作員に暗殺されたのかしら……)
考えうるのは、前線に出る前に暗殺されたか。
だが、今回の戦争はマジル王国が仕組んだもの。オリバーは生かしておかなければ意味がない。
(いいえ、暗殺はない。向こうはオリバーさまを必要としているんだもの)
マジル王国はオリバーの秘術によって、新たなカッラモンドの産地を造ろうとしているのだから。
だけど、私はオリバーにマジル王国の思惑を伝えていない。
それを話すには私の素性を話さないといけないから。
向こうの思惑を知ったら、オリバーは別の行動をとるかもしれない。また国王に何かを言って処刑されたりでもしたらと考え、何も言わなかった。
(だとしたらどうして……、あら?)
考え込んでいると、視界に封のされた手紙が見えた。それは水晶の隣に置かれていた。
この手紙は、今まで見たことが無い。
私は水晶を置き、その手紙を手に取った。
「これ、オリバーさまの!!」
それはオリバーが私宛に書いた手紙だった。
私は封を開き、オリバーが残した文面を読む。
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