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癖の強い字ではなく、私にも読める丁寧な文字で綴られていた。
私はその文面を読み、今回の【時戻り】でなぜ秘術を使わなかったかの理由が書いてあった。
(……なるほど)
オリバーが二つの秘術を使わなかった理由。
それは、【時戻り】を使う私に伝えたいことがあったからだ。
これはオリバーが【時戻り】の仕組みを知った影響が出ている。
そこまでして、私に伝えたいことはなんだったのだろうか。
ーー 君は次の【時戻り】でも、僕に君が何度も【時戻り】をしている秘密と二つの秘術のありかを教えてくれるだろう ーー
勿論そのつもりだ。
ーー この手紙を読んでいる君にしか分からない合言葉を作る。これを戦場へ向かう僕に伝えてほしい ーー
合言葉。
オリバーが戦場へ向かう際、私に声をかけるからその時に告げてほしいと。手紙にはそう書いてあった。
私が合言葉を告げたら、オリバーは今度こそ戦場で秘術を放つ。それでオリバーはこの戦争から生還できるのだ。
(まだ、手紙が続いているわ)
手紙の内容はそれで終わらなかった。
続きにはオリバーの指示が書かれてあった。
ーー 僕が秘術を放ったら、君はこの部屋に入り、【時戻り】の水晶と秘術が書かれた手記を持ち出してほしい ーー
オリバーの意図は分からなかったが、言われた通りにしよう。
ーー 秘術が書かれた手記はブルーノに渡すんだ。必ず、ブルーノに ーー
(えっ!?)
私はオリバーの指示に目を疑った。見間違いじゃないかと文章を見返すまでしたほどに驚いた。
だが、間違いではない。
大事なことなのか、私がオリバーの指示に反すると心配したのか、”必ず”と強調されていた。
オリバーにとって、これは大事なこと。腑に落ちないが、その通りにするしかない。
ーー この手紙は次の【時戻り】で持っていかないでほしい。僕が決めた場所に置くこと ーー
オリバーはこの手紙の置き場所を決めていた。
場所を細かく決めている。これはオリバーの性格なのだろうか。
ーー 最後に、エレノア……、君は僕を救うために何度も【時戻り】をしてくれてありがとう。水晶をこの部屋を見つけたのが君で、よかった ーー
(オリバーさま……)
文章の最後には私への感謝の言葉が綴られていた。
私はその手紙をぎゅと握り、決められた場所へしまった。
もう一度、【時戻り】の水晶を手に取る。
息をすうっと吸って、私は気持ちを引き締めた。
「オリバーさま、今度こそお救いします!」
私は決意の言葉を告げた後、九回目の【時戻り】に挑んだ。
☆
九回目の【時戻り】。
私は八回目の【時戻り】と同じように、ブルーノに暴力を振るわれ、オリバーに庇われる。
オリバーは泣き出した私の気持ちを落ち着かせるために、私室へ招いてくれる。
これはウソ泣きだったけど、上手くいった。
そして、私はオリバーを隠し部屋へと招いた。
ここまでの手法は、前回と全く同じ。
「これは初代ソルテラ伯爵の――、ん?」
私が渡した初代ソルテラ伯爵の手記をペラペラと流し読みしていたオリバーがページをめくる手を止め、そこに挟んであったものを手に取った。
違う。
前回は何も挟まれていなかったはず。
オリバーの手に持っていたのは手紙。ソルテラ伯爵の家紋が記された封蝋がされていた。
「これは……?」
「前の【時戻り】にはありませんでした」
「なら、これは前の僕が残したものなんだね」
「え? 前のオリバーさま?」
私はオリバーに正直に告げる。
オリバーは驚きもせず、落ち着いた口調で前の自分が書いたものだと理解していた。
前のオリバー。
それは前回の【時戻り】のオリバーの事を指しているのだと思う。
でも、どうして手紙を残すことが出来たんだろう。
私は疑問が解けず、首を傾げていた。
「ここは魔法で造られた特別な部屋なんだよ。百年前の火事でも残っていたんだ。時の流れに影響されない不思議な空間なんじゃないかな」
「オリバーさまが仰る意味が……、よく分かりません」
「そうだなあ……」
オリバーに説明してもらったが、私には理解することが出来なかった。
目を丸くしている私にオリバーは、笑っている。
「これは、僕宛の手紙だね」
「手紙にはなんと……」
「これはエレノアには関係ない。君はもう手紙を貰っただろう」
「はい。決められた場所に置いてあります」
「なら、そこをもう一度見てごらん」
オリバーの言う通り、私は歴代のソルテラ伯爵が綴った手記が仕舞ってある三段の棚の内、二段目にある左から三冊目の手記に私は手紙を挟んだ。
「あっ」
そこには封が切られた手紙が一通挟んであった。
これは、オリバーが私宛に書いた手紙。
中身を再度読んだが、内容は全く同じ。
この部屋は【時戻り】に影響されないんだ。
オリバーの説明では理解できなかったが、この手紙を見つけ、原理を理解することができた。
「エレノアは、それをやればいい」
オリバーにはオリバーの役割があり、私には私の役割がある。
私は手紙を元の場所にしまった。
「気持ちは落ち着いたね」
「はい」
「なら、仕事へ戻って」
「分かりました。失礼いたします」
私は仕事へと戻る。
そして月日は過ぎ、オリバーが戦場へ向かう前日、約束の日を迎えた。