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今日も、仕事だ。
少し、不安はあるけど、
悲しんでいても何も変わらない。
だから行こう。
僕は、剣士の集まる所へ行く。
警察署の進化版であるなら、
剣士署と言った方が正しいだろうか、
そんなことを考えながら準備をする。
と、
『よう!銅!』
如月さんがこちらに手を振って来た。
『おはようございます、如月さん。元気そうで安心しました。』
如月さんは笑顔で元気そうだった。
『あぁ、悲しんでてもよ、あいつらが生き返るわけじゃないんだ。悲しんでても余計に辛くなるだけ。なら、元気でいようぜ!』
如月さんもまた強くなろうと、変わろうととしているのかもしれない。
『でも今日はどうなるんだろうな。3人で見回りは流石にあぶねーと思うが…』
そうだ、今、第1隊は3人しかいないんだ。
それに、
琥珀さんは戦わないので、実質2人だ。
『第2隊と一緒になるんでしょうか、』
第2隊は1人が亡くなり、数人は大怪我で戦える状態ではないだろう。
『そうなるだろうな。ま、とりあえず朝礼に向かおうか。』
如月さんが言う。
僕たちは、事務所へ向かう。
『しばらくは私、鬼塚が指示を出す。』
鬼塚さんは、厳しそうだった。
『第1隊は2人が死んで第2隊も1人が死んだ。第2隊は3人が重傷を負って今日は休むそうだ。だから如月、お前は今日第3隊に入れ。』
『はい、承知しました!』
如月さんは少し、緊張していたようだ。
『鬼塚さん、名前の通り怖いですね。』
僕は、如月さんに向けて小声で言った。
『鬼塚様は、幸の鳥島防衛グループのトップなんだ。』
如月さんが恐ろしそうに言った。
様をつけるくらい、偉い人なんだ。
『最後に、昨日のことだが、どうやら北崎の家族が悪いヤツらに捕まって、脅されていたみたいだ。家族は、無事に救出された。』
家族の命を使って脅されていたんだ。
人々のために戦っていた人を、脅して悪いことをさせるなんて…
『朝礼は終わりだ。見回りに行け。だが、銅…だったか、お前はここに残れ。』
え?
なんだろう、
怖い。
『はい。』
皆が外に出て行く中、僕はそこに残った。
『銅…』
如月さんの寂しそうな顔と声。
『僕は大丈夫です。気にしないでください。』
僕は少し笑顔を作って言った。
『本当だな、信じるぞ。』
如月さんはそう言って、出て行く。
皆が、出終わった。
僕と琥珀さんと鬼塚さん以外は。
『なぜ、お前を残したか、わかるか?』
鬼塚さんの圧が強い。
なぜか、
なんとなく、思い当たることはある。
『東雲さんも鷹也さんも、僕のせいで殺されてしまったからでしょうか。』
1番、いわれそうなことを言ってみる。
『違う。それらは自分を守れなかったアイツらの責任だ。』
なら、なんだ?
『僕が昔、犯罪を犯したからでしょうか。』
『そうだな、それもある。防衛剣士隊とはそう言う犯罪者を、牢屋へぶち込むための仕事だ。』
剣士って、そんな仕事なのか?
それは、言い方が良くない気がする。
『それなのに、犯罪者がなぜ、剣士隊として働いているのか。まず、なぜお前がここにいて、剣を持ち、剣士隊として戦っているのか、それについて聞きたかったからだ。』
それは…
『鷹也隊長が誘ってくれて、僕は剣士として…』
『鷹也か。アイツは、犯罪者を仲間にするなんて剣士失格だな。でも、アイツはしん…』
『鷹也隊長は立派な剣士でした!失格だなんてことは…』
『犯罪者が何を言う。さっきお前は自分のせいで殺されたと言っていたが、たしかにそうかもな。自覚があるならなおさらだ。』
…っ
昔の僕については夢で少し見た。
あれは、たしかに犯罪だ。
だけど…
『僕は、罪のない人々を守りたくて…』
『だからなんだ?守るためなら犯罪を犯してもいいと?勝手なことをして、人を傷つけて、何かあった時は責任をとれるのか?』
『・・・』
その通りかもしれない。
いや、その通りだ。
今、言われてわかった。
どうすることもできない。
『でも、剣士隊はそんな僕を認めてくれたと…』
如月さんがそう言っていた。
皆も、僕を認めてくれていたようだった。
『ソイツらが勝手に認めただけだ。ここのトップである私は1度も認めていない。まず、お前を剣士隊に入れた覚えはない。』
だめだ。
何を言っても返される。
何倍にもして、
僕が言い返せないように。
『甘ちゃん…』
琥珀さんが心配そうに言った。
『そこの女も、なぜそこにいる?戦いもしないのに。まず、剣士は男しか認めていない、それに、ここには18歳以上からしか剣士になれないのに…鷹也は本当に勝手なことをしてくれたようだな。』
剣士に男性しかいなかったのはそういうことか。
いや、今そんなことはどうでもいい。
とうとう、琥珀さんのことまで言われた。
どうすればいい?
そっちがその気なら、
こっちだって、
『たしかに僕がしたことは犯罪です。でも、僕が助けなかったら?僕が戦わなかったら?その被害者を誰が助けてくれるのですか?剣士だけで、全てを守りきれるのですか?』
僕も、強気に出る。
『犯罪を犯しておいて助けたと?それを、周りの人が見た時、どう思われるのかを考えたことはあるか?』
『でも、命には変えられない。命の方が大事だと思います。』
『もし、お前の近くで誰かが武器を持ち、戦っていたら、お前はどう思う?お前は人狼だからわかりにくいかもしれない。だが、普通の人は怖いと思うんだ。お前が、誰かを守るために戦っていると、誰がわかる?お前を信用できると、誰が思う?』
『たしかに、僕の周りは僕を、怖いと思うかもしれません。ですが、剣士だって絶対信用できるとは思えません。それに、』
僕は、鬼塚さんの顔をまっすぐ見る。
『僕を信じられる人は僕だけです。だから、僕が守りたいと思えば守ろうとすることはできますし、誰かを助けたいと思えば助けようとすることはできます。絶対に裏切らないと誓えば、裏切らない。僕を信じてくれる人は僕だけで十分です!』
『ふん、そんなのは周りに影響されて変わるだろう。裏切らないと思っても、北崎のように、大事な人を人質にされて、脅された時はどうなるだろうな。』
っ!
そうだ、
もし、琥珀さんが人質にされて脅されたら?
…裏切るかもしれない。
『もっとよく考えて発言するんだな。』
だめだ、
失敗した。
何も思いつかない。
何を言っても返されるだろう。
『何も言うことはないのなら、もう帰れ。お前はもう、ここにいらない。』
『…くっ』
悔しい。
僕は、涙を流した。
『気持ちだけじゃ、何もできないぞ。』
鬼塚さんはそれだけ言って、部屋を出て行く。
僕の居場所は、ここじゃなかった。
僕に、人を守る資格なんてなかった。
僕なんかが、人を助けられるわけがなかった。
『甘ちゃん…』
琥珀さんが心配してくれた。
でも、
僕は…
『何をしてんだよ!銅を泣かせるなよ!』
!
今の声は…
如月さんだ。
『あんなに頑張って、人のために自分を犠牲にできる人なんて銅くらいしかいないのに、剣士に1番必要な人が、必要ないだと!』
僕は顔を上げた。
如月さんが鬼塚さんに怒鳴っていた。
『アイツは剣士として戦う資格がない。お前も同じだろ。昔、親を殺したお前も、ここにいる資格はない。』
如月さんまで、
『じゃあ、なぜ銅にだけ言ったんだ!なぜ俺は今まで許された!そんなのは卑怯だ!』
『なら、お前もやめろ。ここに必要ない。人狼自体、いらないんだよ。』
だめだ、
そんなのは許さない。
止めないと。
『答えになってないぞ。俺が訊いてるのは、なぜ銅にだけ言ったのか、なぜ俺は今まで許されたのかだ!』
『人狼2人と話したくなかっただけだ、お前もいずれ辞めさせるつ…』
『嘘だ!それが本当ならもっと前から、俺を辞めさせてたはずだ。銅にだって、もっと早く言ってたはずだろ!』
そうだ、
なぜ、今になって。
『銅の本当の気持ちを、剣士としての資格があるかを試した。結果はノーだ。』
『なぜ?』
『アイツは、私の言葉に対して何も言い返せなかった。』
『どういうことだ?』
鬼塚さんが部屋に入る。
如月さんも入ってきた。
『たとえば、犯罪を犯してでも守ることが大切だと思うなら、その犯罪で、どう変わるのか。剣士と何が違い、どんな利点があるのかを伝えることが大切だ。だが、お前は答えられなかった。つまり、深く考えず、直感で考えていただけなんだろう。』
!
そうか、
だからか。
だからなんだ。
『でも、銅は記憶喪失で、昔のことがわからないんだ。それじゃ不利だよ。』
『なら、今はなぜ戦う?』
鬼塚さんがこちらを見て訊いてきた。
今は、なぜ…
『今は、苦しむ人々を助けたいから…』
『違う、そうじゃない。助けたいと思ったのはなぜだ。それを答えろ。』
助けたいと思った理由は…
『僕は記憶喪失で何もわからなかったのですが、昔の話を聞いたり夢で見たりして、すごく辛かったんです。僕が人狼だから、周りの人のほとんどから酷い扱いを受けたんです。僕はその辛さを知ってしまったから、誰かに僕と同じように、辛い思いをして欲しくなかったから助けたいと思いました。』
『まぁ、普通の答えだがいいだろう。』
なんとか認められたようだ。
『次は、罪を犯してでも守ることが大事だと思った理由はなんだ。』
『だから、それは…』
如月さんが止めようとする。
『今のお前なら、答えられるんじゃないか?』
なんだろう、
『先ほどと同じように、辛い思いをしたからこそ、誰かに辛い思いをしてほしくなかった。たしかにルールは大事ですが、ルールを守るだけじゃ、人を守ることは難しいどう思います。だから、ルールを破ってでも戦ったのだと思います。』
『最後に、お前は剣士として戦う覚悟はあるか?』
『はい、僕はここで強くなって、皆を守れるようになりたいです。まだ子供だと思われているとしても、僕は絶対に負けない!剣士として戦う覚悟は出来ています!』
これでいいだろうか。
でも、本当のことだ。
『合格だ。』
『え?』
『本当はもっと期待していたが、今は仕方ない。お前を剣士として認める。明日からもここに来るといい。』
認められた。
考えに考えてなんとか出した、わかりにくい言葉。
でも、それが、
認められたんだ。
『ありがとうございます。』
しかし、鬼塚さんはすぐに部屋を出ていった。
『よかったじゃないか、銅!』
如月さんがこちらへ走ってくる。
『僕は、ちゃんと言えてたかな、』
『あぁ!ちゃんと言えてたぞ!』
良かった、
これからも、剣士として戦える。
それが嬉しかった。