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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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善悪の呼び掛けに無言のまま頷いたのはコユキ作の編みぐるみ、マサヤ、カツミ、ナガチカの三体であった。

キビキビとした動きで本堂の中から続々と現れて来たのは以前、アヴァドン指揮下で集団行動を演じていた様々な動物型の編みぐるみ達であった。


手に手に兵隊さん、いいや、はっきり言おう陸上自衛隊員の模型や三トンハンや一トンハン、ナナトン、所謂(いわゆる)大型、中型、特大のトラック群を始め、七四、九〇、一〇の戦車たち、ゴッドハンマーにライトタイガーの戦闘車輌、一六MCVに続いて運び出された1/72スケールモデルはコブラ、アパッチロングボウ、ニンジャ、チヌーク、ヒューイの航空機群である。


境内中に次々と運ばれてくるモデル、コユキから見たら只の『おもちゃ』も規模が規模だけに壮観であった。

良くもここまで集めた物だと呆れてしまったコユキの耳にアヴァドンの物であろう、厳しい叱責の声が響いたのであった。


「貴様! 貴重な兵士たる人形を落下せしめるとは何事かぁ! まさか、貴様? 王党派…… ではあるまいな?」


怒られた編みぐるみは可愛らしいウサギちゃんであったが、ブンブンと首を振って跪き(ひざまずき)両手の指を組んでブルブルと震えるのであった。


見つめるコユキの目の前でアヴァドンの声が続く。


「ふん、まあ良い、直に(じきに)分かるだろうからな、さっさと働けこの愚民がぁ! 社会の為に精一杯尽くすのだ! 他の奴らも見ているぞっ! 個別の差異は余りある者が不足を補うべきである! 相違の総和だろうがぁ! 一般意識に服従せよぉ! 愚民共がぁ! ヒャッハアァァ!」


コユキは戦慄を覚えていた……

知らない内に『聖女と愉快な仲間たち』が変な方向へと舵を切ってしまっていたようだったからだ。


見つめた善悪はアヴァドンの叱責を止めるでもなく、反して喜ぶでもなく只々無表情で一連の流れを見つめているだけである…… なんか怖い……

そう思ったコユキは自分と並んで座っていたアスタロトに向けて聞いたのである。


「んねえ、アスタ! なんかおかしくなってんじゃないのぉ? これ大丈夫じゃないわよねぇ? ね!」


アスタロトが柔和な笑顔を浮かべて答えてくれた。


「ははは、大丈夫に決まっているじゃないか、何を心配しているんだコユキ? 確かに一見すれば軍国主義的なテルールに見えるだろうが、指導者はあの善悪だぞ? 心配には及ばぬよ」


コユキは安堵しつつ言った。


「そ、そうよね! 善悪だもんね、ああ、良かった~」


「そうだ、あの善悪だからな! 革命を経て正しい社会を構築するために滅私で取り組んでいる善悪、正に清廉の人そのものである! 彼が粛清(しゅくせい)を行うならば我々は理想の社会構造を手に入れられる事は必然である! 彼は理解する者である、裁定者にして世界の牽引者、真実の共和を実践し文明、

その存在理由を守護し、世界に真実を顕か(あきらか)にする人である!」


「え? ええ? えええっ!」


トシ子が立ち上がって大きな声で叫ぶのであった。


「そうだっ! その大いなる理想実現のために、我らジャコバン山岳派、クラブは不惜身命(ふしゃくしんみょう)の覚悟で歩みを共にするのだ! テルール? 馬鹿を言え、これは理想実現の手段であるぅ!」


……………………


コユキは思うのであった。


――――えええっ? いつの間に、こんなテルミドール一歩手前状態になっていたんだ…… 善悪を頂点にした恐怖政治が出来上がりつつあんじゃないのぉ………… んでも、まだ決めつけるのは早計かもしれないわね? 皆でベル薔薇ごっこしているだけかもしれないし…… もう少しだけ様子を見てみるか……


考えている内に兵士だけでなく防衛装備品の類も運び終えた編みぐるみ動物隊に向けて善悪が静かに宣言をした。


「ご苦労だった、では、私の後ろに並んでこれから行われる式典に歓声を送るのだ、我が幸福寺のコミューンよ! 理想に身を捧げる兵士たちを祝福しようではないか!」


――――こ、コミューン? まじか? これって…… やっぱり……


善悪がコユキの顔をジっと見つめて言った。


「お待たせコユキ殿、漸く(ようやく)見て貰えるよ♪ てへへ」


言葉とは裏腹に目が一切笑っていない、思わずコユキは息を飲み込むのであった。


善悪がアーティファクト、『鉄人のコントローラー』を手にするのを見て開始の合図を送るのは、リーダー的に振舞っていた例のカエルであった。

片膝付きの膝射、立った姿勢の立射、腹這いになった伏射、MATを構えた兵士迄、関節も無いのに自然な動きで整列するのであった。


車両の類も同様に切り返しを始めて整列していく。

勿論内包すべき魔核も無いのに滑らかな動作でピッチりと並び終えるのであった。


善悪が笑っていない目の儘(まま)でコユキを振り返って言うのである。


「良く見ていてねコユキ殿、専守防衛、平和と良心の実力集団、陸上自衛隊と軍事国家、いいや軍事独裁国家の象徴たるガチョウ足行進、グースステップとの奇跡のコラボでござるよ、楽しんで、ね」


ゾクゥっ!


背筋に冷たい物が走る。

狂ってんの? そんなコユキの気持ちに忖度(そんたく)する事も無く、行進がはじまる……

まるで救国の英雄たる善悪に観閲されることを喜ぶかのように……


膝を曲げず一糸乱れぬ動作で歩き続ける模型の戦士たち、コントローラーを操作しながらも満足そうに見つめる善悪と、その周囲で歓声を上げつつワザとらしく喜ぶ編みぐるみ達……


ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ



画像

堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

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