「恵ちゃんには悪いけど、遊ぼうと思えばもっと適役がいたと思うわよ」
春日さんに言われ、恵は「そうですね」と頷く。
私にとって恵は何物にも代えがたい存在だけど、彼女は自分の事をごく普通のありふれた一般女性と認識している。
私も尊さんを相手にすると似た気持ちになるので、とても分かる。
だからこそ、彼らみたいな何でも兼ね揃えた男性なら、自分よりもっと美人で頭が良くて、お色気ムンムンな女性との出会いがあったに違いないと確信する。
けど、春日さんとエミリさんが言ってくれたように、そういう女性たちを選ばずに自分を選んでくれたんだから、その気持ちを信じなきゃ……と思う。
恵は少し黙って何か考えていたけれど、やがて「うん」と頷いてデザートを一口食べた。
「頑張ってみます。初恋で初めてまともに付き合う人で、分からない事ばっかりだけど、涼さんに相談して、同性に聞いたほうがいい事はこの面子に聞いて、……なんとか手探りでやっていきたいと思います」
「うん、その意気!」
私はグッと両手で拳を握り、恵に笑いかける。
彼女は笑い返したあと、「あ」と声を漏らして私を見る。
「そういえば、おばさんに事件を報告しに行ったの?」
「ああ、うん。事件があった週末に、尊さんと一緒に実家に行った」
私は当時の事を思いだし、溜め息をつく。
「……まぁ、ちょっと心配させちゃったけど、尊さんがしっかり事情を話して『もうこんな事が起こらないよう、徹底して守ります』って言ってくれて、なんとか落ち着いたかな」
「それなら良かったけど」
「母って色々見透かしていたみたいで、私が昭人と付き合っていた当時、全然幸せそうじゃなかったのは覚えていたんだって。だから今回みたいな事が起こっても、『まさか昭人くんが……』みたいな反応はなくて、考えられる未来の一つではあったみたい。……まぁ、付き合っていた当時、あまり昭人の事を母に言わなかったから、あっちも必要以上に首を突っ込まなかったみたいだけど」
「そういうのあるわよねぇ」
エミリさんはうんうんと頷く。
「私もダメンズメーカーしてしまってムシャクシャしている時、母に見透かされて『ジム行ってきなさい』って言われたわ……」
春日さんが遠い目をして言う。
「母って偉大よね~。子供の頃は『口出ししてうるさいな』って思っていたけど、あとから思うと母が懸念してた事って、ほぼすべて当たっていたのよね。……人生経験からでしょうねぇ」
エミリさんは何度も頷きつつ言う。
「お二人のお母さんってどういう感じの人ですか? うちは割とおっとりとした感じで、恵のところはシニアモデルをやってる、自立したいい女です」
「あらー! カッコイイ!」
春日さんは私の説明を聞いて小さく拍手をする。
先に答えたのはエミリさんだ。
「うちの母はあっけらかんとした豪傑ね。……実は小規模ながら会社の経営をしていて、空間デザイナーなの。イベントスペースとか、店舗の内装を手がけてる」
「凄いじゃない! エミリさんの色彩センスがいいの、理解できたわ」
春日さんは目を見開いて賛嘆の声を上げる。
「私は母から断片的に教わったり、カラーコーディネートの真似事をしてるだけで、本職じゃないから全然よ」
「でもセンスはあると思う!」
春日さんはそう言って、ビシッとサムズアップする。
エミリさんは微笑んで頷き、続きを話す。
「アーティスト気質でちょっと気難しいところはあるけど、基本的に行動派で、私が怜香さんの事で悩んでいた時期も『悩むより行動しろ』って言ってたわ……。ある意味鬼」
「ああ……」
私は怜香さんを相手にした時の感情を思い出し、「そうアドバイスされても難しいよな……」と同意して頷く。
あの人は……、あのモンスターは、何をどう行動してもいやみを言っただろうしな……。
そのうち、エミリさんと風磨さんのなれそめや、どうやって怜香さんと戦ってきたかも聞きたい。
次は春日さんが話し始めた。
「私の母はねぇ~……、……んー…………。…………魔女」
魔女と聞いて私は「え?」となりつつも、何となく春日さんの母なら頷けると思ってしまった。
「まず、いわゆる美魔女でしょ? エステや美容医療にも通ってるから、本当に年齢不詳の魔女なのよ。それであの歳になっても若い男から言い寄られてるから……、うわぁ……、本当に魔女。いや、浮気はしてないんだけどね」
春日さんはそう言って、両手で二の腕をさする。
「それに人生経験も豊富だから、私があれこれやって失敗してるのを達観した目で見ていて……、ああ、腹立つ。そういう所も魔女っぽいのよ」
母を前にしてはさすがの春日さんも娘になってしまうのか、彼女は渋い顔をして腕組みをする。
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この4人の女性のママ達....✨ きっと個性的で素敵な人ばかりなんだろうなぁ🍀 ママ友になって、お話してみたいなぁ~🥰💕💕