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「あの日も、こんな天気だったな。」
大木の枝に座る八左ヱ門はボーッと空を見上げた。そしてその視線を下へとずらし、己が仕えてる城を冷え切った瞳で見た。
八左ヱ門から里を、家族を奪った城。
「八華。」
遠い昔、八左ヱ門をそう呼んでいた家族は八左ヱ門一人を残して死んでしまった。
「やっと、終わる。」
八左ヱ門は立ち上がると、口布を上げた。
そして懐から濃い紫の組紐を取り出した。組紐は日に照らされてキラキラと光っている。
「やるよ。」
「何だ?これ?」
5年生に上がったばかりの春、三郎が八左ヱ門に手渡したのは組紐だった。
「組紐だ。この間街に行ったら見つけたんだ。お前に似合うと思って。」
顔を真っ赤にして言う三郎は、とても新鮮で今でも覚えている。
「俺に?」
「あぁ。いっいらないなら無理に受け取らなくてもいい。」
「いるに決まってるだろ!」
八左ヱ門は髪紐を解いて三郎がくれた組紐で髪をゆった。
「どうだ?」
そう問うたとき、三郎は今まで見たことのないくらい優しい笑みで八左ヱ門の頬を触った。
「似合ってる。」
「良かった、ありがとな。大切に使うよ。」
「あぁ。」
「三郎‥‥‥」
組紐を握りしめた八左ヱ門は、息を吐き組紐をもらったときと同じように髪紐を解き、組紐で髪をゆった。
「よし。」
八左ヱ門は焙烙火矢に火をつけて空に上げた。
ボカーン!
タソガレドキに学園を守るように依頼したとき、八左ヱ門は一つ約束をした。
ー攻撃を始めるときには、焙烙火矢を爆発させること。ー
「約束はきちんと守りましたよ、雑渡さん。」
八左ヱ門はダランと両手を下げて、微笑んだ。
そして犬笛を鳴らして夜の闇に消えていった。