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ショッピングモールに到着すると、自分の服を軽く見てまわった後、そのままメンズショップへとなだれ込んだ。
自分の服を選んでいた時間より、雅の服を選んでいる時間の方がずっと長かった気がする。
服を雅の体に重ね合わせ、「んー……これもいいかも」と唸りながら吟味していると、雅は心底うんざりした表情を浮かべていた。
「おい」
「ねぇ、これとこれどっちが好き?」
「どっちでもいい。……じゃなくて、おいって」
「そうよね。どっちも買えばいいわよね……」
「聞いてる?てか、聞こえてんのか。面食い女」
自分の買い物は十五分ほどで二着買っただけだったが、その後はかれこれ1時間近く、雅を連れて何店舗もハシゴしていた。
雅は眉間に皺を寄せながらも付き合ってくれてはいるが、その表情はイケメンの無駄遣いだと思った。
「夏帆さ~ん? これ俺の服選んでんだよね? 自分の服じゃないよね?」
「うるさい。これがストレス発散方法なんだから黙って立ってなさい」
「本当何なのこいつ」
彼は溜息をつくと、ようやく何を言っても無駄だと理解したのか、観念して口を閉ざした。
「流石にここ出たら荷物車に置いて、飲み物でも飲みに行かね?いい加減疲れた」
「体力無いのね? おじさんだから?」
「黙らせんぞ。こっちは昨日朝四時に帰ってきて寝不足なの。てめぇのせいでな」
「大学生の頃は、オールして大学行ってたのにね……。年を取るって悲しいわね」
そう煽った瞬間、私の頬が片手でぎゅっと掴まれた。
「黙らせられたい?」
雅はとびきり良い笑顔でそう言ったが、流石にその迫力に恐怖を感じ、私はふるふると首を横に振る。
こいつが言うと、洒落に聞こえない。
「てか、夏帆ちゃん気付いてる?」
そう言いながら首の後ろに手を回され、ぐっと距離を詰められる。にやけた、気に入らないほど整った顔を見上げると、まっすぐに目が合った。
「……何が?」
「美男美女カップルがいるってちょっと騒がれてんの。店員にもキャーキャー言われてんの気付いてなかった?」
「カップルじゃないから興味も無いわね」
「まだ俺等お似合いだって事じゃん? 縒り戻す?」
雅の言葉に軽く溜息を吐き、「さっさと離れて」と低い声で告げる。そこでようやく、奴は体を離した。
今こうして心地よい空気感で楽しめているのは、私達が友人だからだ。恋人としての時間には、もう欠片も興味がない。
「未練たらしい男嫌いなの。そんなに納得いかなかった? 振られた事無いのに、私に振られたのが。それならあの日の別れ話を今頃やり直して、私が振られてもいいわよ」
「……やり直しなんかきくわけないだろ。バカじゃねぇの」
「そんな事わかってんのよ、バカ」
談に真面目なトーンで返されたのが癪で、雅の頬を軽く抓った。それからレジに向かって会計を済ませ、荷物を抱えて約束通り車へと戻る。
もしやり直しがきくのなら、私は別れる瞬間ではなく、雅と出会ったあの瞬間からやり直したい。
そしたら今度は、あんたのことなんか……、
─────絶対に、好きにならないのに。
⏲
数時間後。約束通りカフェでお茶をし、軽くショップを回ってから夕飯を済ませた。一度荷物を置くために、私の家へと向かう。
雅の車は、私のマンションのすぐ近くにあるコインパーキングに停めていた。
「こんな近くに住んでて今まで会わなかったの。俺等」
荷物を置きながら驚いている雅に「そうね」と短く返す
実は、私も彼の家に着いた時に全く同じことを思っていた。
雅がこの街にいるはずがないと思って生活していたから、仮にどこかですれ違っていたとしても、気づかなかっただけなのかもしれない。
買ってきたものを、雅に渡す分だけまとめて整理する。自分の物より雅に買った物の方がずっと多く、ふと冷静になると私は一体何をしているんだろうと疑問が湧くけれど、後悔はなかった。
「これ荷物ね」
うまくまとめたつもりだったが、紙袋は三つにもなっていた。それを見た雅は、案の定、顔を顰めている。
「絶対買いすぎだろ…。ストレス発散で買い物する奴って普通自分のもん買うんじゃねぇの?」
「私が欲しい服は大体揃ってるし、その時の流行は追うけどあまり買い足さないのよね。増えるのはメイク用品の方が多いかも」
「他人にここまで貢げるのすげえな」
「あんたの顔を見るとつい…」
不服だけれど、これは推しに貢いだのだと思うしかない。
もう一度言うけれど、心底不服ではある。
私の心境も知らず、雅は荷物を見て指をさし話しかけてくる。
「帰り取りに来るから置いといてくんね」
「もう、このくらい持っていきなさいよ」
「これ仕事に持って行くにはバカの量なんだよ」
「車においてけば?」
「いいじゃん、置いといてよ。車に持ってくのも面倒くせぇし」
その言葉に妙な違和感を覚えたけれど、玄関先に荷物を置かせておくくらいなら……と、つい気を許して「……そう」と返事をした。
まなこ〜友
117
#ますしき
T
5,800
この男と私の間に、今さら間違いなんて起きない。いざそうなろうとしても、今までだって「やめろ」と言えば止まってきたのだから。
雅も私も、お互いを友人としか思っていない。そこに恋だの愛だのが介在するはずはない。
「じゃあ玄関先に置いておくから……、って今日私にラストまで居させるつもり!?」
「任せろって一時で帰れる様にはするから。明日休みだろ? 付き合って」
そう言いながら肩を抱いてくる手を、強めに振り払う。
「そう言う問題じゃない! 勝手に決めるな!」
抗議はしたものの、今日は朝早くから彼を連れ回したという罪悪感も少なからずあり、結局それ以上断ることはできなかった。
バーの開店前、私はただの客なのだからと、開店してから改めて来ると断ったのだが、雅に大丈夫だと言い張られ、そのまま連れられてきてしまった。
(本当、この男話聞かないし、強引なの何……)
今日は私が雅を振り回してストレスを発散するつもりだったのに、最終的にはこちらが振り回されている。結局、最後に疲れるのはいつも私の方だ。
雅は雅で、私を振り回すのが愉快なのか、いつも最後には立場を逆転させてくる。
堂々と店に入っていく雅の背を追い、私も恐る恐る足を踏み入れると、玲くんと目が合った。開店前に入ってきた私を見て、彼は当然のように驚きの表情を浮かべる。
「あれ、夏帆ちゃん?」
「開店前にごめんね……? 大丈夫だった?」
「大丈夫だよ」
「俺の同伴相手」
「うち、そういう店じゃないんだけど」
雅の同伴相手という言葉に、玲くんは呆れたように笑った。雅はそんな視線を気にする様子もなく、着替えのためにバックヤードへと消えていく。
私はその間に、いつもの席に腰を下ろした。客は誰一人おらず、BGMも流れていない店内は、ひっそりと静まり返っている。
雅を見送った玲くんが「なんで雅と一緒?」と問いかけてきた。二人で遊びに行き、そのまま一緒に店に来るなんて初めてのことだからか、彼は不思議そうな顔をしている。
「私のストレス発散に付き合わせたの」
「なるほどね」
玲くんは納得したように笑い、いつものようにメニューを渡してくれた。
「ありがとう。でも、一杯目は決めてるの。また雅に前に作ってもらったカクテル作ってもらおうと思って」
「そっか」
あのカクテルはメニューに載っていない。頼むなら、雅か玲くんに直接お願いするしかない。
今日は奴に作らせると決めていたので、玲くんの厚意を断り、雅が戻ってくるのを待つことにした。
「あれから、雅とはどう?」
「どうって?」
「付き合ってたわけだし、何か思ったりしないの?」
「……思わないことはないけど……、どうして?」
「俺は元恋人とどんな別れ方をしたとか関係なく関わるのは嫌だから、夏帆ちゃんと雅の関係性が不思議なだけ。ただの興味だよ」
玲くんの言葉に、納得はした。
そもそも私に元カレと呼べる存在は多くないけれど、普通に考えれば、別れた相手なんて会いたくもないし、関わりたいとも思わない。
根底にあるのは玲くんと同じ考えなのに、なぜ今、私は雅との関係を続けているのかは…、正直自分でもよくわからない。昔から知っている仲だし、気楽な今の距離感なら疲れない。それだけだと思っているけれど。
「そもそも嫌いで別れたわけじゃないから、再会してからは気まずいとしか思っていなかったんだけどね。今はこの友人関係が心地よくて、最初からずっとこっちの方が合ってたのかもって思ってる」
「付き合ったこと後悔してるってこと?」
「交際していた時も楽しかったし、後悔はしてないけど…。ただ、私達はいつも恋愛に関してはタイミングが合わないから」
交際当初、雅は仕事に精一杯で、恋愛にまで手が回らなかった。
再会した今、もしお互いの気が向いたとしても、今度は私が仕事を手放せないから、結局うまくいかない。それが分かっているから、恋愛感情は持たないし、縒りを戻すこともない。
(それに、今の雅は女たらしすぎてタイプじゃないし)
自分に言い聞かせるように軽く溜息を吐き、まだかとバックヤードの方へ視線を向けた。
コメント
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読了しました🌙 夏帆が雅に服を選ぶ時間の長さとか、心の中で「絶対に、好きにならないのに」ってブレーキかけてるのがすごく切なくて…。やり直せるなら出会った瞬間からって願う気持ち、わかるようで胸がぎゅっとなる。今は友人って言い聞かせてるけど、二人の距離感がもう恋愛の匂いしててドキドキします🥀