テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「彼が振り向いてくれる日は、きっと春が来た時だと思っていた。」
私は、桜の花が咲く前の寒い朝にふとそう思った。まだ冬の名残を感じる風が頬を冷やし、肩をすくめるほどだったけれど、それでも心のどこかが温かい。
「おはよう、ゆき。」
突然、背後からかけられた声に思わず振り向く。そこにいたのは、彼だった。
彼はいつもと変わらない笑顔で、少しだけ冷たい風の中で肩をすくめながら、ゆきに微笑んでいた。私はその笑顔にドキッとする。なんでもないような顔をしているけれど、心の中では大きな波が立っているのを感じる。
「おはよう。」彼に返す声は、少し震えていた。自分でも気づかないうちに、彼と話すたびに、心臓が早く鳴る。
彼はいつも、他の誰よりも気を使わずに話してくる。気を使うことなく、何もかもが自然で、ゆきの心の中ではその存在がどんどん大きくなっていった。しかし、それはあまりにも静かな恋だった。
「今日も寒いね。」彼が言う。
私はその言葉に少しだけ微笑みながら、うなずく。「うん。でも、春も近いよ。」
「そうだね。」彼はどこか遠くを見つめるような目をした。「もうすぐ、桜が咲くんだろうな。」
桜の花が咲くころ、彼ともっと話したいと思った。でも、ゆきの胸にはまだその思いを告げる勇気がなかった。恋の気持ちは、まるで冬の寒さの中にこっそりと咲く桜のように、誰にも気づかれずに、ただ一人で温めているような気がした。
その日は、放課後に一緒に帰ることになった。彼と二人きりで歩く道は、いつもの風景だけれど、今だけは特別に感じた。
「ねえ、ゆき。」彼がふと、普段の口調とは違う真剣な目で言った。「俺、何か気になることがあってさ。」
その言葉に、私の心臓が一瞬で止まりそうになった。彼が何を言いたいのか、まったく分からない。でも、それが嬉しいような、少し怖いような気持ちに変わった。
「気になること?」ゆきは思わず口を開いた。
「うん…君、前から、俺と話す時、ちょっと顔を赤くするよね。」彼の言葉が、ゆきの顔を一層赤らめさせる。
「え?!」驚いたように声を上げたゆきに、彼はゆっくりと笑った。その笑顔が、ゆきにとっては世界で一番大切なものに感じられた。
「大丈夫、気にしてないよ。」彼は軽く肩をすくめると、また歩き出した。「でも、俺も少しだけ…君のことが気になるんだ。」
その言葉に、ゆきの心が一気に温かくなる。そして、春の風が頬をなでるように、ゆきは小さな声でつぶやいた。
「私も、あなたのことが気になる…」
彼は立ち止まった。目の前の桜の木が、まだつぼみを閉じたままで、春を待っているように見えた。
そして、静かな空気の中で、彼は言った。
「じゃあ、春が来る頃、もう少しだけ…お互いに近づいてみようか?」
私は、ゆっくりと頷いた。彼と一緒に春を迎える日が、どんなに待ち遠しかったことだろう。
コメント
2件

男のセリフにあんまりドキドキしなかったけど、季節を意識させる文が良かったと思いました。こんなんも思いつけんのかあと、あなたに対する意識を改めました。あなたの恋も、春が終わるまでに、うまくいくといいですね! もし好きな人がいるなら、の話ですけど!